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「その名も零界石」と言って、ミネルヴァは苺のジャムが挟まれたサンドクッキーをつまむ。
 説明によると、この零界石は楽園の塔によって死を定められた魔女の寿命を早める物、文字通り0にする石である。普通の魔女が持っていても、いつ来るかも分からない寿命を早めた所で意味が無い物なのだが、寿命が決められた魔女だからこそ効果をもたらすと言って良い。ならば、普通の人間には効果はあるのかと言えば、否。何故かとロベルティーネが問えば、こればかりは教えられないとミネルヴァは口を閉ざしてしまった。仕組みはよく分からない代物だが、結果から言えば魔女にしか効果が無いらしい。
 何とも都合の良い石だ。だが、あるに越した事は無い。
 ロベルティーネはペンダントをズボンのポケットに仕舞うと、ミネルヴァは箱を食卓の上に置いて、再び席に着いた。彼女はチョコチップクッキーを一つだけつまみながら、何処か虚しげに、それでも真っ直ぐにロベルティーネを見つめる。吸い込まれそうな程に美しい琥珀色の瞳。深海の青とかち合う瞬間、彼女ははっきりと筋の通った声で言った。

「確実に、あの女を葬りなさい」
「……言われなくとも」

 ロベルティーネの言葉を聞いて、魔女は何処か安堵した様子で微笑んだ。憂いた瞳は、深い青から背かれた。

***

 あれから二人は紅茶にも菓子にも手を付けぬまま、ミネルヴァの案内の下、鬱蒼とした森の道を辿りながら──とは言うが、その森は道らしい道は無く、辛うじて獣道らしい通りがあるだけ。しかし、三人が通ったのは獣道でも何でもない、生い茂る草叢の中である──夜に沈む街中まで出た。

「では、手助け程度はするつもりだから。宜しく頼むわよ」

 ミネルヴァがロベルティーネの肩に手を置いて、再度言い含めるが、ロベルティーネはその手を払い除けて「くどいぞ」と眉を顰める。

「失敗なんてされたら堪ったものじゃないから、ついね」
「……報酬の件、頼むぞ」
「……分かってるわよ。相変わらず綺麗な顔して、美しくない言葉遣いね」

 ミネルヴァが手を振ると、ロベルティーネは振り返る事もせず、スタスタと路地の奥へと去っていく。メルヴィンは時節ミネルヴァを不機嫌そうに振り返りながら、ぶっきら棒な殺し屋を追いかけた。それを、魔女はいつまでも微笑みながら手を振る。
 二人の姿が見えなくなった途端、ミネルヴァは「フフ……」と優雅な笑い声を漏らす。森の木々はザワザワと音を立てて、風に靡いた。

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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月18日 21時

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