4、ポール・スミスと永遠の午前0時 ページ4
××
「ほんま、おばはんうざかったわぁ」
目元をぐしゃりとしかめ、無遠慮に口を開いたその男は、
さっきから婚約者の愚痴しか言わない。そもそも婚約者がいるというのに、ここで堂々とキャバ嬢の家のソファに転がっている神経が尋常ではないが、私も同類だった。
「婚約者さん?また喧嘩したの?」
私は、あえて訊いた。訊かないのも不自然、訊きすぎるのはもっと不自然。その絶妙な匙加減こそがこの職業の要だ。水を出しながら笑ってみせると、彼は顎を引いてこちらを見た。喧嘩、とひとことで片付けるには、よほど根深い関係性なのだろう。あるいは──ひたすらに薄いだけか。
「喧嘩っていうか話が通じへんねん。やっぱ歳いった女はあかんわ」
出ました。年齢差別に女性蔑視を添えて。
「最初は妹のほうやってん、婚約話。そっちはまあまあ可愛かったんやけどな、俺の17の誕生日に死んでもうてん。首、ロープでぐるぐるや。ほんでおばはんが繰り上がり当選や。もう地獄やろ」
「そうなんだ……」
正直、どこまで恨まれていたら誕生日に婚約者に首を吊られるような事態になるのか少し気になったけど、もちろん聞かない。私はなおちゃんの家のことも、職業のことも、家庭のことも、一切聞かないと決めている。
なぜなら、それらは聞いたところで私の幸福には一ミリも寄与しないからだ。むしろ、知らないでいられるうちはまだ「無知」という名の幸福が担保されている。
そして何より、彼の口から語られる物語はいつだって地獄の裏口のように唐突で不衛生で、私はその度に少しずつ、自分の感覚を殺していかねばならなくなる。
「そういえば三女も首吊ってたなあ。三姉妹のうち二人も首吊ってんの、すごない?あのおばはんは、いつ首吊るんやろなあ。先にロープ買っといたほうがええんちゃう?」
(うるせー口だな)
私はこの男を黙らせるために、手元にあったチョコレートを指でつまみ、まるで犬に芸を仕込むときのように、彼の口元まで運んでみせた。実に無意味な行為だった。なおちゃんはほんの一瞬だけチョコを見つめ、次の瞬間、私の唇を塞いだ。
(……あーなんか、なんか、私の人生って感じだ)
チョコレートは宙ぶらりんのまま、私の指先で溶けかけていた。皮肉なことに、甘くとろけていくのは、チョコではなく、こうして自分の人生の方なのかもしれない。
あいにく私は、甘いものがそれほど好きではない。
**
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柊あんず(プロフ) - 感想さん» お返事遅くなり大変申し訳ございません。そしてコメントありがとうございます!あの作品も読んでくださっているんですね♡そうなんです、今回は一見同じような系統の、反対の女の子を書きたくて…!!直ぴの良いところは性格の悪さ!間違いないです!! (1月19日 16時) (
レス) id: 8cca98d851 (このIDを非表示/違反報告)
感想 - 「五条悟とパパ活したい!」の夢主と反対の考えをしている夢主ちゃんでもサイコーに可愛くて賢くて世渡り上手で好きだしやっぱり直哉の良いところはこの性格の悪さにある!と思いながらニヤニヤして読んでます。 (11月27日 22時) (
レス) id: df8f599215 (このIDを非表示/違反報告)
柊あんず(プロフ) - おはぎさん» コメントありがとうございます!私の作品を読んで直哉が一番好きに…!?感無量でございます…私も直哉を書くのが楽しくて仕方ないので、こうして一緒に楽しんでいただける読者さまがいてくださることが、何よりの励みです💐今後ともよろしくお願いいたします! (11月12日 0時) (
レス) id: 8cca98d851 (このIDを非表示/違反報告)
柊あんず(プロフ) - もやしナムルさん» コメントありがとうございます!わー!あの作品、本当に衝動で書いたので一度パス保護かけようか迷ったりもしたのですが、そう仰っていただけると書いた甲斐があったなと嬉しく思えます…!あの作品とはまた違う直哉の関係性にご注目くださいませ🐰💕 (11月12日 0時) (
レス) id: 8cca98d851 (このIDを非表示/違反報告)
おはぎ - 「五条悟とパパ活したい!」を読んだ日から直哉が1番好きになりました。 なのでまさかあんずさんが直哉の新作描いてくれるなんて本当に嬉しくて泣きそうです😭 言葉に表せないくらい嬉しいです😭 更新頑張ってください! (11月10日 0時) (
レス) id: a0fa270004 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あんず
| 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/HiiragiAnzu/
作成日時:2025年11月9日 1時


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