テセウスの船…em ページ8
※「不思議なお店のエーミール」の続き
テセウスの船というのをご存じだろうか。ある対象の物質が、別な物質で代替えされた場合それは元の対象と同じと言えるか、という話だ。
人間で例えるなら、細胞が数年で生まれ変わった場合、自分は「数年前とは別人」かどうかという事。
店のショーウィンドウに飾られた人形は、私が好きだった人間を確かに形作っている。しかし、肌も瞳も生きていた頃とは違うもの。喋らない彼女を見ると、彼女はかつて私が愛した彼女そのものか分からなくなる。
「…Aさん、今日はこのシックなワンピースを着ましょう？貴女に似合うと思って、買ってきたんです。」
作られた陶器のように滑らかな肌を持つ腕を袖に通し、背中のファスナーを上げて。二度と開くことのない唇に接吻する。
「綺麗ですね、Aさん。」
かつての自分の選択は果たして合っていたのか。正解だったのか。いや、自分を信じるしかないのだ。
自分の行いを否定すれば店のある一部の商品をも否定することになる。
カランカラン、と店のベルがなり、誰か来たという事を知らせた。
「エミさん、ショーウィンドウに飾られとる人形、随分かわええな。」
「ああ、大先生ですか。」
「あれ、売ってくれへん？」
どきりと自分の心臓が音を立てた。自分が丹精込めて作った商品が売れる。それは喜ばしいこと。そのはずなのに、困惑して売りたくないと思ってしまった。
「……すみません、彼女は…非売品なんです。」
「なーんや。そうならショーウィンドウに飾らん方がええで。」
「…そう、ですね。」
咄嗟についた嘘。結局大先生は香水とお香をいくつか買って帰っていった。
そして私は言われたとおり、彼女をショーウィンドウから撤去しカウンターに移動させた。
「……なんででしょうね、Aさんだけは、手離したくないんです。」
本気で愛してしまったからか、ただ単に自身の傑作を手離すのは勿体ないと思ったのか、それは分からない。
ただ、私はかつてのAさんを愛していた。それだけは鮮明に分かっている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 417人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
羅威那(プロフ) - 兎餅さん» ただいまリクエスト消化滞っておりまして…いつ書き上げることができるか分かりませんがそれでもよろしければ… (2022年4月28日 23時) (
レス) id: c967219d95 (このIDを非表示/違反報告)
兎餅 - sinpさんが、ヤンデレ化して夢主を閉じ込める系のって、書けますか……？ (2022年4月24日 7時) (レス) id: 1c6f84240e (このIDを非表示/違反報告)
ひかる(プロフ) - ありがとうございます！お待ちしてます！ (2020年3月14日 3時) (レス) id: 525527bd5b (このIDを非表示/違反報告)
羅威那(プロフ) - ひかるさん» ひかるさんリクエストありがとうございます。最近思うようにかけず、更新が滞っておりますがそれでも良ければお待ちいただきたく思います。 (2020年3月13日 22時) (レス) id: ac81da58c3 (このIDを非表示/違反報告)
ひかる(プロフ) - knさんが嫉妬してる感じのお話読みたいです…！！ (2020年3月9日 21時) (レス) id: 525527bd5b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
