不思議な鍵屋の3…sha ページ15
あの子の家の鍵を作ってから何年経ったろう。最初は家事をしてくれれば、なんて安易に考えていた。そしてその記憶をお代にすればいいって、簡単に思っていた。それなのに、彼女にあまりにも近づきすぎてしまったんだ。
惚れてしまったんだ。
だからあの日、俺を忘れてもらうために、俺もあの子をあきらめるために記憶に鍵をかけた。でも自分の恋心は消えないままで、きっと彼女はいまごろ誰かに恋をして、なんなら結婚してるかもしれないのに。
「うわっ？！」
ぐらりと脚立が揺れて、道具箱を守る形で床に身体を打ち付けた。
「いってえ〜！」
静かな店内に自分の声が響く。カウンターに戻ってグルッペンから頼まれた鍵を作っていると、ドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ。家の鍵から特別な用途の鍵まで。なんでも…」
はっと息をのんだ。Aちゃんが育ったらこうなるだろう、と言うような風貌。なによりも、優しいあの目が彼女を思い出させた。
「あの、友人に聞いたんです。ここにくれば記憶が戻るかもって。…でも、ここってどう見ても鍵屋さん、ですよね。」
「…あ、ああ…。」
声も、彼女のものだ。彼女に近づいて近づくと俺と同じ香水の匂いがする。
「あ、店主さんも同じ香水してらっしゃるんですね。」
「なんで…。」
「男物なんですけど、なんだかこの香り好きなんです。」
「…そう、なんや…。」
上手く言葉が出てこない。彼女に間違いないんだろう。あの日恋をした彼女なんだろう。
「誰だよ…ここの事、話した奴…っ！」
「…あの…？」
「いや、なんでもないで。なんやったっけ、記憶取り戻したいんやったっけ？」
「はい。」
奥の方にある個室に案内する。ベッドしかない簡素な部屋だ。ベッドに座らせて彼女に問いかける。
「あんな？記憶を閉ざしてるってことは思い出したくないっていう自己防衛かもしれないんやで？それでも思い出したいんか？」
「はい…ある日から、心にぽっかりと穴が空いたように、寂しかったんです。」
そんな事言われたら、まるで両想いみたいじゃないか。ぽろぽろと頬を伝う涙が止められなくて、彼女の記憶を戻しても居ないのに抱きしめてしまった。
「あ、あの？！」
「ごめん、ごめんなあ…少しだけ、少しだけやから…。」
「店主さんにも、辛いことがあったんですね。」
そうやって簡単にこっちを受け入れるところも変わっていないらしい。それにまた涙が出た。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 417人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
羅威那(プロフ) - 兎餅さん» ただいまリクエスト消化滞っておりまして…いつ書き上げることができるか分かりませんがそれでもよろしければ… (2022年4月28日 23時) (
レス) id: c967219d95 (このIDを非表示/違反報告)
兎餅 - sinpさんが、ヤンデレ化して夢主を閉じ込める系のって、書けますか……？ (2022年4月24日 7時) (レス) id: 1c6f84240e (このIDを非表示/違反報告)
ひかる(プロフ) - ありがとうございます！お待ちしてます！ (2020年3月14日 3時) (レス) id: 525527bd5b (このIDを非表示/違反報告)
羅威那(プロフ) - ひかるさん» ひかるさんリクエストありがとうございます。最近思うようにかけず、更新が滞っておりますがそれでも良ければお待ちいただきたく思います。 (2020年3月13日 22時) (レス) id: ac81da58c3 (このIDを非表示/違反報告)
ひかる(プロフ) - knさんが嫉妬してる感じのお話読みたいです…！！ (2020年3月9日 21時) (レス) id: 525527bd5b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
