肆−悪い夢を、見ていたんだ ページ4
＊
「＿＿＿＿＿て！」
誰の声だろう。暖かくなる、声。この声を知っている。ぼんやりとした意識が、覚醒し始めると共に、声はどんどん大きくなっていく。
「＿＿＿きて！＿＿＿＿おきて！おーきーて！Aちゃん！」
はっと目が覚める。Aが起き上がると、目の前に六太がいた。死んだはずの、守れなかったはずの、六太が。
「ろ、く、う、うわああああん！！」
「！Aちゃん？」
六太に縋り付く。嗚呼、温かい。暖かい。生きている、生きている。ごめん、ごめん、あの日守れなくて。ごめん。と、Aは何度も、何度も、謝った。
「どうしたの！？」
葵枝が駆け寄ってくる。涙が溢れて止まらない。ここにいる家族は皆、守れなかった。Aは顔を上げて、葵枝を見る。また、どんどん、涙が溢れる。葵枝は、心配そうな表情で、Aを抱きしめた。
それから少し時間が経ち、Aも冷静さを取り戻した。涙を拭いて、少し頬を赤らめた。
「疲れちゃって、怖い夢でも見たのかもしれないわね…。Aも頑張ってるから…無理しないでね？」
眉を下げて、葵枝はAの頭を撫でた。
「無理なんてしてないですよお」
未だに赤みが引かない顔で、Aは大人しく撫でられている。どうして、泣いたのだろう。確かに悪い夢を見ていたと思う。けれど、それが何だったのかはもう、忘れてしまっていた。
「ただいまー！」
「兄ちゃん！おかえりなさい！」
竹雄、花子、茂は外にいたのか、炭治郎に撫でられているのが見えた。ずびずびと、鼻を啜りながらAも行く。
「A！ただいま………」
「おかえり、たんじろ＿＿」
「どうした？泣いたのか？目元が赤くなってる…。何かあったのか？」
肩を掴み、質問攻めしてくる炭治郎に、Aは苦笑しながら「怖い夢を見た」と言った。すると、炭治郎は微笑みながら、彼女の頭を優しく撫でた。Aの一等好きな手で、時折心を痛める手だ。家族の一人としか見られていない痛み。
「禰豆子は？」
「山菜採りに行ってるよ！」
「私も行ってくる！」
何だか、恥ずかしくて、Aは禰豆子の元へ向かった。炭治郎に撫でられる恥ずかしさもあるが、無性に禰豆子に会いたくなったのだ。
己に降り注ぐ太陽の光が、とても眩しくて、優しくて、何だか懐かしく感じた。
「Aちゃん」
伍−それはまるで菩薩のような慈悲深さだった→←参−幸せな夢の中へ
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作者名：僕達はエンジェル | 作成日時：2021年9月25日 14時
