其れは誰かの為に振るうもの-Ⅲ- (ページ13)

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拾参－継承していくものページ13

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「A、いいかい」

低く、優しい、誰かの声。いや、知っているはず。この声は、父の声。Aの父＿日向俊之の声だった。彼はAが四つの頃に亡くなった。それまでの俊之との記憶は曖昧だった。しかし、ただ一つ鮮明に覚えていたものがあった。

「義幸と一緒に、簪と舞を継承してくれ。俺には為せなかったけれど、お前たちなら、きっと」

そう、俊之は言う。何を為せなかったのかは、教えてはくれなかった。彼はAの頭を撫でると、木刀を持って外で素振りを始めた。何と戦っているのかは、幼いAには分からなかった。もしかしたら、義幸は知っていたのかもしれない。

ある日、俊之は亡くなった。突然の事だった。衣類しか残っていなかったらしい。母＿あかねが泣いていて、義幸が己を抱き締めていた。知らない人が沢山家に来て、涙を流していた。Aの、父の記憶はそれだけだった。

舞、舞とは、何だったっけ。Aはぼんやりとそう思う。俊之が何度か見せてくれていたはずの、舞。記憶が朧気で。思い出せない。けれど、それは御先祖様が舞った、白の呼吸の型に似たものだった。もしかすると、同じなのかもしれない。

ポウ、と突然現れた光の粒子。暖かいこれは＿＿＿＿

『Aちゃん、起きて！』

『Aちゃん！！なにかこっちに来てるんだ！』

『ここで寝てたら危ない！』

『Aちゃんっ』

花子と、竹雄と、茂…そして六太の声。彼らが、Aを呼んでいた。木にもたれかかって眠るAに。こちらに向かって勢いよく駆けてくる、強大な力の気配があった。それを感じた彼らが、Aを起こそうと呼びかけている。

『Aちゃん！！』

－－バチリ。Aが起きた。気配を探る。とても、とても大きな力。Aは素早く立ち上がり、今こちらへ向かう何かを迎え撃つべく刀を握って走る。今、汽車は脱線して横転している。乗客たちは、きっと大丈夫だ。煉獄達がいるのだからと判断した。

神経を集中させる。向かってくる気配はとんでもなく速い。己よりも格上の敵だ。けれど、それに怯んで腰を抜かすなんてことがあってはならない。炭治郎は腹部を刺されているから、危ないかもしれない。もしここで、強大な力を持つ敵の時間を稼がなければ、きっと殺されてしまうかもしれない。

腹を括る。死ぬ事がなくとも痛覚はある。耐え難いものになるかもしれない。それでも。

振るってみせる、守る刃で＿＿＿。