【完結】あのね、ずっと好きでした。【KY】

29話 ページ29

「当てちゃった！？まじか！？」

フジさんはあわあわと忙しなく手を動かすと、遠慮がちに私の肩に腕を回した。
フジさんの暖かい胸元に涙腺が緩みそうになり、距離を取ろうと手を伸ばした。

「嫌だった？ごめんねでもこうしてれば落ち着くかなって」

フジさんは強い力で私の肩を抑えると、さらに距離を縮めた。
そのまま背中を撫でられてみろ。
私はフジさんの胸に縋るしかなかった。
フジさんは黙って私の背中を撫でている。
私はなんて弱い人間なんだろう。
こんなんじゃ、大人のキヨ兄ちゃんに釣り合うわけがない。
悔しい。悲しい。ずるい。元カノ。色んな感情が混ざって気持ち悪い。
フジさんはそんな私に気づいてないように、背中を撫でたまま違う所をみている。
私の声なんか、花火に消えてしまえ。

「…すみません落ち着きました」
「それはよかった」

フジさんは涙で張り付いた私の髪を耳にかけると、微笑んだ。
くそ。イケメンかよぉ。

「で、何があったの？」
「あの、実は…」

花火大会の雑音の中。誰かが私を呼んだ気がした。思わず後ろを振り返る。
フジさんは不思議そうに私をみている。
フジさんには聞こえてないようだ。
気のせいか。とフジさんに向き直ると。

「っみつけた…！」

強い力で引っ張られ後ろに倒れ込む。
暖かくて柔らかい、さっきまでそばにいたキヨ兄ちゃんの香水の香り。
目の前のフジさんはびっくりした様に目を見開いている。その視線は私の後ろ。
背中には荒々しい息がうなじにかかる。
くすぐったくて、少しの期待を込めて、後ろを振り返ると。

「1人になるなって言ったべや！急に走り出しやがって！！俺がどんなに…！」

キヨ兄ちゃんは大声を出しすぎて最後には咳き込んでいた。
慌てて背中を撫でる。
キヨ兄ちゃんは咳き込みながら私を睨みつけ、手を掴んだ。

「もう俺から離れんなよ。心配しすぎて死にそう」

キヨ兄ちゃんはだるそうに柱に背中を預け、肩で息を整えている。

「うん…ごめんなさい…」
「あの…いい雰囲気の中ごめん。キヨ？だよね？」

フジさんは申し訳なさそうに声をかけると、私の肩越しにキヨ兄ちゃんの顔を見つめた。

「…は？フジ？」
「フジだけど…え？Aちゃんとどういう関係…？」

え！？知り合いなの！？それより！！
私は慌ててキヨ兄ちゃんの手を振り払い、フジさん向き直るとジェスチャーと口パクで伝える。

「(私の好きな人！)」

フジさんは察してくれたのか、キヨ兄ちゃんと私を交互に見ている。

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