中島敦の親友 (ページ8)

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親友6人ページ8

『……つし、敦！』

Aの声で目を覚ます。
くらくらする体を起こして周りを見渡すが、人喰い虎の姿はどこにも見えない。
それ所か早急まで外にいたはずなのに、建物の中に移動していた。

『アンタ、川の近くの通りでぶっ倒れてたんだよ。』

定食屋のおじさんが見つけてくれて……と、混乱している僕に状況を説明してくれる。

『取り敢えず過労ってことにしといたから、今日はここで……

「虎が……。」

虎が出たんだ！と叫び、Aの肩を震える手で掴む。
そうだ、虎だ。何一番大切なことを忘れているんだ僕は。

「あいつ僕を追って来やがった……！川にいたんだ、あの虎が…！！」

もしも、あれが見間違いじゃなかったら。
ゾクッとしたものが背筋を走る。

それだけじゃない。
もしAがあの時一緒にいて、僕のせいで襲われてしまっていたら。

それが何よりも怖かった。
Aまでいなくなってしまったら、なんて。怖くて恐くて仕方無い。

「逃げないと…遠くに。もっと遠くに逃げないと……っ。」

ヨコハマまで追って来るなら、もっともっと遠くに逃ければいい。

逃げる手段やその後どうするのか、何て。そんな考えこの時の僕には欠如していて。
ただ、「虎から逃げなくては」の一点が、脳内を侵食していた。

『……落ち着け、敦。』

「これが落ち着いてられるか！本当に虎が僕を追って来ていたら、Aだってどうなるか分からないんだ！」

　
ふう、と溜め息を落とした彼女に、視線を向ける。
何故そんなに落ち着いてられるんだろうか。僕にはさっぱり分からない。

『定食屋のおじさんが、夜ご飯を奢ってくれるって。だから一回落ち着こう？』

お腹が膨れれば、落ち着いて物事を考えられるって聞いたことある。

手を繋いで背中を擦り。

冷静に戻るまで、「大丈夫だから」を繰り返し言ってくれる。

『敦が。どこの誰で何があろうと。私は離れていかないから。』

小さい頃約束したっしょ？ニッと笑った彼女の顔が、昔の姿と重なって見えた。