Half step【3】 (ページ8)

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「…わかっ、た。」

少しカタコトになりながら、返した言葉に彼の顔が少し緩む。
それを確認してから、青信号の前で立ち尽くしてた足を横断歩道に踏み出した。

「あれは恥ずかしかったから、もうしないで。」

隣に追いついた彼に伝えると、

「こっちもあれはなかなか。」

思い出したのか苦笑い。

それを知って、安心した。

これまでの恋愛経験が豊富＝不誠実、

だとは思いたくないけど、やっぱり気にはなってた。

私のために慣れないことしてくれた、と感じて、嬉しくなる。

多分この嬉しいは…

「ねぇAさん、俺の事」

「あと、よしのりくんって呼ばすのもなし。」

あの時を思い出して、ついでの確認くらいに言ったのに、彼はえ、と不満げな声を上げたあと、

「あかんの？俺、彼女にはよしくんって呼んで欲しいんやけど。」

よしくん？
私が？呼ぶの？正門くんのこと？？

初々しい高校生カップルじゃないんやけど？

「ね？まさかど、って珍しい名字でバレるから」

「…そんなん、名前のが絶対目立つ！」

「じゃあ、今さら俺が西野さんって呼んだらいやちゃう？」

情に語りかけてくるやつ、
でもまあ、…違和感、かもしれない。

「…よしくん。」

1回だけ。

そんなに大きな声で言ったつもりはなかったのに、細い道で想像以上に響いた。

もう少しで日が変わる。
冷えた空気に、白くなって消えた言葉

「え？…今、」

「ちゃんと言ったからね！
もう1回は、」

「はぁ〜！」

もうそこにマンションの入口が見えてるのに、彼はまた足を止めて繋いだ方の手を引く。

「なに？」

「あかん、好き。」