Half step【3】 (ページ33)

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金曜の夜、のれんをくぐると、いつもと少し違うことに気がついた。

これまでもそこそこ繁盛してるなとは思ってたものの、この時間まで満席とは。

「いらっしゃいませ〜、…あ、正門さんの。」

レジに立ってた女の子がそう言う。

そっか、そう認識されてるんだ。
まあそうか、なんだかんだもう半年以上だし。

「すみません、空きそうですか？」

「え、呼びますよ？正門さーん！」

「や、それは別に。」

今日は厨房の中にいるらしい。
女の子が私に背中を向けて、中に手を振って呼ぶ。

「なーにー、いっちゃん。
俺忙しいん見えてたよな？」

えっ？と思ったとほぼ同時に姿が見えてきた彼。

「私じゃないです！ほら、彼女さん！」

一瞬、びっくりした顔をした彼はすぐに目を細めた。

「あ、Aちゃん」

「…忙しそうやね。お疲れさま。」

女の子はテーブルの片付けの方に行ってもうその場にはいなかった。

「あのさ、今のはさ。」

「いいよ。別に気にしないから。」

嘘。気にしないわけないし。
でも、こんなとこで言い合うのは違うから、私から終わらせる。

「それより、今日は無理そうよね？
先に家行っとこうか？」

「あぁ、…それ、しかないか…」

キーケースから1本鍵を抜き出す。

私に渡そうとしたところで止まる腕。

「大丈夫？ひとりで帰れる？」

「帰れるって。」

「すいません〜」

ちょうどまた新規のお客さんが来て、私たちはしれっと距離をとる。

「じゃあ、ありがとうございました〜」

別れ際が強引すぎたかな？とか思いながら、正門くんの同僚への態度を思い出さないように蓋をした。

初めて、だけど、毎回横で見てたから勝手知ったる的な。

ガチャっと、解錠してドアを開けると、

「びっくりした。」

大吾がいた。

「…なに？…入らんの？」

「おったんや…ここに」

いつもみたいな真っ暗な部屋に、真っ黒な服装の大吾は、また今にも消えてしまいそうで

「正門ならおらんけど、店の方」

「心配した。大吾、」

「…俺？なんで？」

「なんでって…
大吾が、東京なんか、行くから。」

「帰ってきたと思っても、
またさ、」

大吾は帰って来たのに、バンドは活動再開しない。