酩酊と体温:I ページ11
駅まではのんびり歩いてもたったの10分もかからない距離。家は、もうすぐそこ。
家に着けば、当たり前のように繋がれた手は、当たり前のようにまた離れてしまう。
俺たちには、手を繋ぎ続けるだけの理由がないからだ。
繋がれた手を持ち上げて、得意げに笑うAを見つめる。
その笑顔が無性に愛おしくて、もう覚悟とか自覚とか関係とか、そういったものはすべて忘れて、ただ抱きしめてしまいたいと思った。
だから、そうした。
自分がこんなに行動派だったなんて、知らなかったなぁ、と、まるで他人事みたいに分析してる自分がいる。
繋がれた手を自分の方へ引くだけで、足元のおぼつかないAは、いとも簡単に俺の胸へ飛び込んできた。
「えぶっ」
カエルを潰したみたいな音がして、すぐにそれはケラケラと笑い声に変わる。
Aはやっぱり、何もわかってないもんな。
わかってる。酔ってること知ってる。
酔ってて、明日になれば記憶をなくしてしまうことも知ってる。すべてわかっててやってるんだ。
忘れてしまってもいい。俺がこうしたかったからした。
こうせざるを得なかったから、した。
だいぶ低い位置にある華奢な肩を、ぐっと抱え込むように深く抱きしめたら、Aは徐々に笑うのをやめた。
それと同時に、寄りかかるみたいにゆっくりと俺のほうへ体重がかかってきて。
俺の脇腹あたりの服を、躊躇いがちに摘んだ。
酔ったAの体温が暖かい。残暑の夜の風は湿っぽく暑くて、なのにこれっぽっちも不快じゃなかった。
岩「………A」
Aに触れるのは、簡単だった。
抱きしめるのも、簡単だった。
岩「……好きだよ」
想いを伝えてしまうのも、あまりにもあっないほど、簡単だった。
Aは何も答えない。
明日には、すべて、なかったことになる。
やっぱり、ちゃんと想いを伝えよう。
Aが、関係性を変えたがっていないことには気づいてる。
でも、俺、もう止まれないから。
明日には、すべて、なかったことになる。
だからまた、作り直そう。
この時の俺は、Aの暖かさと愛おしさで、もう何にも見えてなかったのかもしれない。
だって、"明日になってもなかったことにならない可能性"なんて、全く考えもしなかったんだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 945人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しょぴお - このお話すごく好きでした。今まで更新お疲れ様です。ずっと読んでました。笑 お話の終わり方がすごい、いい感じですね。このお話大好きです。 (2019年5月31日 19時) (
レス) id: d08dff729e (このIDを非表示/違反報告)
れいな(プロフ) - 続編待ってます。 (2019年5月30日 11時) (レス) id: f9aa5203aa (このIDを非表示/違反報告)
Momanao(プロフ) - 続編、楽しみにしてます！なんか...嵐が吹き荒れる予感が... (2019年5月16日 1時) (レス) id: a8ed6fc393 (このIDを非表示/違反報告)
しょぴお - 話を読んでて泣きそうになった…。いや、泣く笑 (2019年5月14日 22時) (レス) id: d08dff729e (このIDを非表示/違反報告)
ミックスジュース(プロフ) - なべしょに頑張って欲しい！この作品大好きです！！これからも頑張って下さい！楽しみしています(^○^) (2019年5月14日 20時) (レス) id: 6b8cfc92fa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おかゆ
| 作成日時：2019年2月1日 14時
