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夏祭り ページ46

照は何も言わなかったし、あたしも何も言わなかった。

人混みをスルスルと抜けていく。

でも、履きなれない下駄のあたしでも、歩くのがしんどくないくらいに。

ただ横に並ぶのは気まずくて、一歩後ろをついて進んだ。

少しすると人数は減ってきて、小さな神社についた。

岩「ここ、花火はちょっと遠いんだけど、人少なくて穴場なの」

照があたしの手を引いたまま、顔だけ振り返って優しく笑いかけた。

照の顔を見たのがやたら久しぶりに感じて、少しだけホッとした。

岩「足元気をつけて」

「……うん」

照の声が優しくて、いつもよりさらに頼り甲斐があって、握られた手首が熱くて。

ちゃんと手を握って欲しいって、そう思ってしまった。

岩「8時まであと5分……うん、時間ぴったり」

スルリと、あたしの右手は自由になって、照は神社の石段に腰掛ける。

すぐ隣の石段を軽く手で払ってくれて、何か少し不安そうな顔で、あたしを見上げた。

そんな顔しないでほしかった。

あたしが、この2人きりの時間を受け入れるのかどうか、それに不安になっているようで。

本当はね、こんなのダメだよって言って、早く5人と合流しなくちゃいけないんだと思う。7人で楽しむべきものなんだと思う。

でも、どうかこのまま、誰にも見つからないで、と願ってしまう自分がいるんだよ。

このままじゃ、あたしと照が、前に進んでしまう。

そしたら7人は壊れてしまう。

でも、止めたくないよ。

あたしはどうすればいいんだろう。

正解がわからない。

でも、照が不安そうな顔をするのは、どうしても嫌だった。

そっと隣に腰掛けて、黙って夏の夜空を見上げる。

遠くの方で花火が上がり始めるまで、あたしたちはただゆっくりと呼吸をして過ごした。

照の顔は見れなかった。




やがて花火が始まって、あたしたちはほんの少しだけ会話をした。

確かに会場からは少し距離があるのか、花火自体は小さかったけれど、境内の中には人がほとんどいなくて、それが居心地良かった。

夏祭りの茹だったような灯りが遠くに見えて、なんだか別世界に紛れ込んだみたい。

遠くから響く花火の音も、夜なのにじわじわ暑い夏の風も、着慣れない浴衣の帯の締め付けも、隣から伝わる緊張も。

全てがむず痒くて、心が逸るようで。

本当に世界で2人きりになってしまったら、それもいいな、なんてらしくないことを考えた。

きっと照も同じことを思っているんじゃないかな、なんてことも考えた。

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すずの(プロフ) - しょっぴーしんどみが深いです! (5月5日 2時) (レス) id: 0281d1cc7e (このIDを非表示/違反報告)
もやし(プロフ) - 改めて最初から読み直しました!!しょっぴーが切ない…。しょっぴー頑張れ!!笑 (1月25日 1時) (レス) id: e09021bb44 (このIDを非表示/違反報告)
とみちゃん(プロフ) - あなたの紡ぐ文章が読めて嬉しいです、応援してます。 (1月25日 1時) (レス) id: df9c0b9860 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 最近は更新が毎日あって寝る前の楽しみになっています!無理せず頑張ってください!本当に文章やストーリーがお上手で感動します(;_;) (1月24日 1時) (レス) id: 32bd2067cf (このIDを非表示/違反報告)
にゃんこけし(プロフ) - 阿部担だけど、なべがものすごく気になってしまいます…(笑) 物語もいよいよ佳境ですが、メンバー目線もっと読みたいです♪ 更新無理せず頑張って下さい(*´∀`*) (1月23日 17時) (携帯から) (レス) id: b63c0386f9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おかゆ | 作成日時:2018年12月18日 4時

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