赤井秀一と言う男 ページ15
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横顔の確認できるその男は、顔に手を当て考えるようにして、切れ長の瞳を資料に落としていた。
そして、人の気配に気付いたのか男はゆっくりと振り返った。
「‥ああ、君か」
どこか柔らかくなった表情。組んでいた足をほどいた赤井は、こちらに歩む新堂に優しい目を向けた。
『まだ残られていたんですね』
「君のデスクに鞄が残っていたからな」
さらりと君を待っていたと溢す赤井に、新堂は緩みそうな表情を隠すように髪をかきあげた。
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「まったく、日本はなんでも申請、申請だな」
『腐りきった紙文化素晴らしいでしょう』
新堂の皮肉に赤井は、時代遅れだとぼやいた。
デスクに出しっぱなしにしていた私物を鞄におさめた新堂は、振り返って気づけば自分の真後ろにいた赤井に驚いた。
デスクと赤井に板挟みになった自分の体を引こうとして、バランスを崩しかける。声にならない小さな叫びをあげ、大きく傾いた体。20代後半にもなって転けるなんて恥ずかしい。新堂の頭には、もう既にそんなことがよぎっていた。
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『っ‥‥、』
「‥、‥‥」
ほっ、と赤井が小さく息を吐く。
がっしりとした手が、新堂の背中に回っていた。片手をデスクについた赤井は、それで新堂の体と自分の体重を支えていた。抱き抱えるようにした赤井は、安堵したように新堂の肩に顔を乗せた。
その仕草にどきりとしながら、新堂は浅く息をついた。決して軽いとはいえない女性１人分の体重をいとも簡単に支えて見せた。
『‥すいません‥‥、』
「いや、まさかそんなに驚かれるとは思わなかった。すまない」
どくん どくん
どちらの心音か分からないが、大きく弾む音がする。
赤井がその大きな体で呼吸をするたび、同じように新堂の体も上下する。染み付いた煙草の香り。
どこか安心するその匂いに、ありがとうと囁いて目を閉じた。
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ほんの少し、束の間の時間を過ごした。
赤井は新堂を立たせて、ポケットから車のキーを取り出した。とても人間の一歩とは思えないほどの歩幅でエレベーターホールへと足は向けられる。
「マスタングは嫌いか？」
『大好物です。RX-7みたいに片輪走行しなければ』
口角を上げた赤井に、新堂はバッグを手にして小走りで駆け寄った。
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作者名：ハル | 作成日時：2021年9月16日 19時
