降谷零という男 ページ14
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ーコンコン
資料室の扉がノックされ、無数のファイルが陳列される棚を前に、資料に目を落としていた新堂は、顔をあげて音の方を見た。
「お疲れ」
グレーのスーツに身を包んだ降谷が、革のビジネスバッグ片手に佇んでいた。新堂はお疲れさまですと返して資料を閉じた。
『お帰りですか？』
「ああ。部下達に帰れと強制した手前、自分が残るのも忍びなくてな」
『あれ、私は帰れと言われてませんけど』
「お前は言っても聞かないからな。風見とは大違いだ。ほどほどにしろよ」
『16勤明けの人には言われたくないな〜。ふふ、お疲れ様です』
「ああ、また明日」
コツン、と何か音がしてそれが入り口にあるサイドテーブルに、個包装のチョコレートが置かれた音だと分かって新堂は、閉まる扉に口角をあげた。
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大きく伸びをして壁掛けの時計を見る。
降谷がこの場をあとにして、1時間が経とうとしていた。明日もある。ほどほどにしとけと上司にも言われた。今日くらいは自分を甘やかしてやろうと、一冊分の隙間が空いた本棚にパズルのピースをはめるように手に持っていた資料を返す。
電気を消して、扉を閉める前にテーブルに置かれたチョコレートを手に取って資料室を出る。
銀の包みをはがして、ミルクたっぷりのチョコレートを口にした。廊下は薄暗い。こんな時間まで残っている職員は少ない。
今日も働いたと伸びをしながら歩を進めて、新堂はあることに気づいた。警備企画課の明かりがついている。
降谷が帰った今、部下は誰一人として残っていないはずだ。降谷が消し忘れたのか、はたまた新堂に配慮してつけたままにしていたのか。
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そんなことを考えながら足を踏み入れたフロアに、上背のある幅広の後ろ姿を見つけその疑問は解決した。
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作者名：ハル | 作成日時：2021年9月16日 19時
