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女の言う大嫌いな男は、無口な人だった。
何も話してくれない。何も教えてくれない。冷酷無慈悲が似合う背中で、優しさの欠片もない冷たさを解き放つ。
連絡先も、名前も教えてもらえなかった。
煙草も酒も元より嫌いだった。
このお店を知ったのは、合コンで共に抜けた男に連れてこられたからだ。
そのとき、そんな冷たい男に出会った。
横にいるハイスペックな男よりも、何よりも心惹かれた。
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また会えないか、と
女はバーに通った。
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いくら嫌いだと言っても、男は隣で煙草を吸うことをやめなかった。
会話を広げてくれるわけでもない。目を見てくれるわけでもない。
次の約束をしてくれるわけでもない。
ただ、その男の隣から離れようとすると、
“A”
名前を呼ばれた。
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ある日、男の後ろを追いかけるように店に入ってきた褐色の男がいた。
その男は、彼を“ジン”と呼んだ。
手には煙草が握られており、それを渡した褐色の男は足早に去っていった。
忘れ物を届けただけらしい。
ジン、ジン、ジン。
頭のなかで何度も繰り返した。
それが男の名前か。
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その日からだ。
このお店では、ネグローニが手放せくなった。
願掛けだったのかもしれない。
ただ、会いたかった。
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作者名:ハル | 作成日時:2021年9月12日 0時