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始まりは、火のつかない湿気たマッチ。
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吐き出した煙が、白く光る雑踏を抜けた暗がり。さっきまで騒がしい居酒屋にいたせいか、今いる場所が余計に静かに感じられる。
深く吸い込むとそのほろ苦さが体全体に染み渡って、ひどく安心した。
そんな行為を何度か繰り返しているうちに、聞こえてきたのは、シュッ‥シュッ‥という、何かが擦れる音。
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その音が、マッチ棒を箱に擦り付けるものだと気付いたのは、喧噪から逃げてくるように抜け裏として近くを通った車のヘッドライトが理由だった。
180�僂詫イ砲△訌歓反燭湛�な男。背中には、何か背負っているように見えた。
その顔は口元までしか見えなかったが、咥えていたのは確かに煙草で、その手に握られていたのは紛れもなくマッチだった。
陰のかかる男の顔が、少しこちらに動いたあたり、向こうもこちらの女に気づいたのだろう。
特に何かを言うわけでもなかったが、男がこの場を去ろうとしていることは女に分かった。
『火、つかないんですか？』
男の砂利を踏む音が止まったのを確認して、暗闇に向かって自身が持っていたライターを投げ入れた。
地面に落ちた音がしないあたり、男が受け取ったと考えていいだろう。
自分が喫煙者のためか、吸いたいときに煙草が吸えない辛さはよく理解できる。
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壁にもたれていた女は、近くのブロック塀の崩れに腰かけた。壁に頭をつけ、深く息を吐く。
煙は当然のように、闇に飲み込まれていくだけ。
『さっき、急に雨降りましたもんね。梅雨って嫌ですよね、湿気酷くて。でも、今時マッチで火つける人っているんですね。なんか、かっこいいかも』
私もしようかな、なんてボヤいてみるけど男からの返事はない。
当然のことだが、女はつまんなと頭でつぶやいた。
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作者名：ハル | 作成日時：2021年9月12日 0時
