十六夜に立つ。(ジャレッド・フロウの備忘録)【神樹を守る子ら】

我が主よ、どうか迷える子羊を ページ7

人は誰でも迷うし、惑うものだ。
少なくとも、この世界の人々は皆強迫的に無能力者になることを恐れているようだ。
それゆえに、無能力者の子供を持ってしまえば血迷って子供に手をかける。
無能力者の子供は、その被虐の事実に、『無能力者は出来損ない』と惑う。
ユキトくん、カナトくん、そしてくろちゃんも。ここにあとから来る子供たちは、大抵がそういった事情を抱えている。
私には、彼らが幸せな道を歩めるように、祈ることしか出来ない。
就いていた職業は、私の特殊能力が無くしては成り立たないようなものだった。それを叩き込んだところで、果たして食べていけるほどに育てられるか。答えはノー、だ。
責任ある大人。本来は彼らが子供を守るべきなのに、彼らのしていることは、正直に言えば子供を生かすものでは無い。
吐き気がした。皆のいる手前そんなことは言えなかったが、それでも思う度に、それを胃の中身とともにぶちまけたくなるのが正直なところだった。
神樹の近くに、綺麗な湧き水が貯まっている水溜まりがある。気分転換ついでだ、と私はそこへと歩くことにした。

酷く眠たい。…そう言えば、私はこれまでろくな睡眠をとっていなかったかと思い返した。
歳をとると個々まで身体に堪えるのか、それともただ単に眠らなさすぎたのか。
空を眺めていたら、私はいつのまにか医務室のベッドにいた。途中から、私は寝こけていたようだった。
今日も神樹は生きている。ザワザワと、枝をざわめかせながら。

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