【文豪ストレイドッグス】空白にもなり得ない世界の話。 (ページ37)

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空白が三十六。ページ37

『それ私に頂戴！』

男子達が取るより早く、Aは敦の手から一つの飴を取った。

そして男子達が敦から飴を奪う暴力は終わった。それだけで、今の苦しみから逃れられただけで、十分だった。

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前に話していた院長の娘としての敦の記憶は、ここまでだ。

「忘れてた...これには、続きがあったんです」

太宰は黙って耳を傾けていた。

『あれ...？』

院長に酷い仕打ちを受け、やっと戻った寝室では、他の子供達がぐっすり眠っている。

それは何時も通りの光景だ。いつもと違ったのは、自分の寝る場所に飴が落ちていた。

否、置いてあったのだ。何日も食べていなかった食べ物にありつけた敦は深く考えることも無く食べた。

Aの優しさだとは知らずに。

敦は一人の時間が好きだった。決して一人が好きだった訳ではなく、他の子供達といれば虐められてしまうから。

『光と風と夢...』

『私も好きだよ、その本』

読み漁っていた中で見つけた、一冊の本。飴のことがあってから、Aと会えば何か取られると思っていた。

ばっと勢い良く本を隠し、書庫から逃げ出した。