† ꘜ ページ14
剣持 side
『綺麗なんだろうなぁ、羽』
…そもそもこれは誤算だったのだ。
いい加減、集会に出向くのは最後にしよう。そう思っていた。僕はヴァンパイアハンターであって、ヴァンパイアと馴れ合う存在では無いのだ。
そう思っていた。
…だと言うのに、そこに突如現れたのは余りにも好みの容姿をしている幼…少女だったのだ。
誤解しないで欲しい。決して年齢の話をしている訳では無い。
「…羽、ですか。」
僕には羽はない。ヴァンパイアでは無いのだから。
少女…Aの期待する物は存在しないのだ。
こんな事を伝えるのは酷だろうか。
…真実を伝えるのは難しい。
今ここで突然「実はヴァンパイアハンターの人狼でした!」なんて言ってみろ。確実に目の前で大きな目を輝かせているAは泣いてしまう。それは勿体ない。
「…あと5年」
あと5年だけ。彼女の成長を見ることくらい許されるだろう。…5年後に、全てを終わらせよう。
情なんて、必要ない。
全ては虚空から始まったのだから。
そこへ還すだけなのだから。
年数を伝えると、しぶしぶ了承したAが口をぷくりと膨らませている。
まだまだ可愛い子供だな、なんて思いながら頭を撫で、料理に目を移す。
いけない、まだ食べきっていないのだった。
せっかくの美味しい料理が冷めてしまう。
黙々と食べながら、5年後に訪れるその日のことを考える。
全てを終わらせたら。
この楽しい空間も虚空へ還ってしまうのか。
ここ数十年はギルザレンの討伐という目標もあり、年に一度のチャンス…いや、もはや茶番を楽しみにしていたので毎日が楽しかった。
…こんなことを考えるなんてらしくない。
やはり早く討伐するべきだったのか。
完全に情が湧いてしまっている。
虚空に還ることは当然のことなのだ。
自らの手で、還してやるだけなのだ。
…なのに。僕の"本能"は。
ぐちゃぐちゃと巡る思考を止めるべく、ひたすら料理を口に運ぶことしか、今の僕には出来なかった。
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作者名:はむ | 作成日時:2023年3月25日 11時