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2人の関係は変わっている。
恋人ではない。寝たこともない。
ただどんな枠にも当てはまらないほど
ピアースはAと距離を縮めてしまった。
彼女はきっと自分がいなくなっても
生きていける。
だが、俺は？
繰り返すまいと決めていた過ちを
白紙に戻すには遅すぎる。
自分の腕の中にいるAを
更に強く抱き寄せ、髪に顔を埋める。
途端にAの髪についた
いつもと違う匂いに顔をしかめた。
「火薬の匂いがする」
「さっきまで現場にいたの。言ったでしょ、報せを聞いて飛んできたって」
へらりと笑ったAが離れると
自分のものではない血が病院の白いスクラブについていることに気づき
ピアースの顔はサッと青ざめた。
「A、血が」
「ああ、ごめん。ついちゃったわね」
よく見なくともわかるくらい彼女が着ている淡いベージュ色の長袖の左腕部分が
出血によって濃く変色している。
顔についた数カ所の切り傷も新しいものだ。
どうして気づいてやれなかったのかと
浮かれていた自分を責めた。
と、同時に怪我をしているにも関わらず自分自身のことを疎かにするAに苛立ちを覚える。
「そんなこと気にしなくていい、
怪我してるならどうして先にここに来たんだ」
「こんなのかすり傷よ、大したことない。
それより自分の状況わかってる？
撃たれたのよ、死んでもおかしくなかった。自分の大事な人が生死彷徨ってるときにこんな怪我気にしてる方がおかしいでしょ」
「俺のことはこの際どうでもいい。
何で切ったかわからない上に雑菌が入って
感染症になって悪化したらどうするんだ。
それに跡になる。今すぐ治療してもらえ」
「治療ってほどじゃ」
「駄目だ、してもらえ」
反論は認めないとばかりに声を低くして凄む。
「大怪我してる人から言われるとなんだか笑える」
「俺は真剣に言ってるんだ」
「はいはい、ここは病院で誰でも腕から血流してたら嫌でも治療されるから安心して」
「目の前で腕から出血されてる限り安心できない。早くここから出て医者を見つけろ」
「全く。どっちが心配性なんだか」
と、Aは肩をすくめた。
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作者名：若松 | 作成日時：2021年9月28日 14時
