切望 / ピアース ページ5
警部補ヒロイン×ピアース
ぴっ、ぴっ、と規則正しく病室に響く機械音はピアースの容体が安定している何よりの証拠。
彼にとっては不死身であることの象徴そのもの。
ああ、何と虚しいのだろう。失敗した。
ピアースは一人病院のベッドの上で
今回も逝けなかったのかと絶望していた。
しばらくして
スタッフが廊下を忙しそうに歩く音以外に
ばたばたと走る音が聞こえ
自分の病室前でぴたりと止まった。
「マーカス！」
扉をがらりと開け肩で息をしている人物こそ
彼がこの時代の中で距離を取っていない唯一の人物。
彼女の姿を確認し、
ほんの少しだけ目を細めた。
「Aか」
彼女の来訪により
心が軽くなっていく感覚に
自分の単純さを痛感する。
「もう！無茶しないで！
死ぬほど心配したじゃない！」
ベッドに大股で近づき、
足元をバンバンと叩く。
「悪い」
「撃たれたって聞いて飛んできたわ」
走って乱れた長い黒髪を整えながら
まだ少し上がっている息を落ち着ける。
「相変わらずの心配性だな
いい加減慣れろ、
俺たちの仕事はこういう仕事だ」
「わかってる。…わかってるけど
どうしようもない時ってあるでしょう」
どれだけキャリアを積もうが
異例の早さで出世し、
自分と同じ肩書きを持とうが
彼女は新人のときから何も変わらない。
ピアースが怪我をしたと聞くたびに
病院へなりふり構わず駆けつけるのだ。
「残念ながら、何回撃たれようが
どこから突き落とされようが俺は死なない」
不死身なんだよ、と腕を広げて
おどけてみせる。
「お願い、今そういう冗談はやめて。
貴方を失うかもしれないと思って
さっきまで生きた心地がしなかったんだから」
本当なんだ、俺は呪われてる。
そう言えたらどんなに楽か。
そしてもし、信じてもらえたなら神はそれにどんな意味を見出しているのだろうか。
真剣な顔を崩さないAにピアースは
真実の代わりに謝罪の言葉を告げる。
そして無言のまま、
吸い寄せられるように
自然にお互いの腕の中に収まる。
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作者名：若松 | 作成日時：2021年9月28日 14時
