これが恋だなんて信じないⅡ (ページ3)

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私だけにはページ3

「ってか宏規くん……もう時間やばくない……？」

冷えピタを換えた私はもう頭痛以外はだいぶ楽になっていた。これなら明日の公演に出られるかもしれない。
時計を見ると時間は私の最寄りの終電ギリギリの時間だった。
宏規くん眠くないのだろうか、と思ったが、そういえば中々寝付けないってどこかの雑誌かなんかで言っていたことを思い出す。私も今起きたのもそうだが、夜は遅い方だ。

「あぁ～。まあ、歩いて帰ろうかなって」

「はっ?!え、家まで？」

「うん、家まで」

「いや、それは危ないでしょ！」

思わず大きい声を出してしまって痛みに頭を抑える。
いや、しかし、もう0時を超えている。

「変なおじさんにストーカーされたらどうするの」

「いやされんやろ」

「でも…」

私と綾瀬の家のように5分などという距離ではない。駅数個隔てているのだ。距離も時間も相当かかる。

私の心配した様子を察してか、宏規くんは「大丈夫やって。そんな心配せんでも」と笑顔を作った。不思議と安心できるような笑顔である。私は宏規くんの色んな表情が好きだった。

「……わかった。あ、タクシー代出そうか？」

「いやいや、それはさすがに大丈夫よ？そんなら自分で払う」

「じゃあ、今度絶対お礼させてね！映画代とか払うから！」

頑固やなぁ。そう言いながらも別に嫌そうじゃないので承諾の意だろう。よし。

「そういえば、宏規くんって意外としっかりしてるよね。舞台の裏とか見てると歳下だからそんな風に見えないのに。病人の面倒見れたり…私には多分無理だわ」

まあその前に人の家にあるもの探し出せるのもすごいと思うが。鍋とか色々。ってか掃除しといてほんとよかった。

「いや、うーん、まあそうやな、うん」

そう曖昧に答えるので、「どういうこと？」と苦笑しながら聞いた。

「だって、Aちゃんだけには良いとこ見せたいやん？」

「え？」

「あ、いや、なんでもない！俺、もうそろそろ帰るわ。ちゃんと寝てな」

勢いに流され頷いた。玄関まで見送り、「じゃあ気をつけてね」と手を振って言うと、「うん。そっちもな。また明明後日」と軽く手を振り返した。

玄関のドアがバタンとしまる。
1人になった部屋は寂しく感じたが、それよりも、私の脳内は宏規くんのさっきの台詞が胸の鼓動とともに頭を巡っていた。

私だけには、ってどういうこと？