これが恋だなんて信じないⅡ (ページ13)

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マリウスページ13

「実はマリウスそんなに好きじゃなくて……ずっと想ってたエポニーヌが報われないじゃん。マリウスとコゼットの恋路を邪魔するでもなく、マリウスに協力するのに、最後も守って亡くなって…」

「なるほどね。マリウスはある意味すごくまっすぐやからな～でもだからエポニーヌがいいんやない？」

「そうなんだって！…話の中でも大事だし、マリウスを嫌いとは思えない。……でもカフェソングのシーンは…そこまで感情移入ができない」

思わず「ごめん」と付け加えた。私別に悪くないけど、これからマリウスを演じる宏規くんにこんなこと言うのはやっぱり気が咎める。

「ははっ、なんでそんな申し訳なさそうなん。俺に遠慮とかせんでええんよ？ってかしないで」

「……だって、嫌われたくないし」

小さく呟いてしまっただけのはずだったが、「もー嫌わんてー」と返された。迂闊に言ってしまうのやめよ…

「俺はAちゃんの素直で裏表のないところがええなって思っとるんやから。もうちょっと信用してほしい」

「…宏規くんが望むなら」

「よかった」

あくまで好きで憧れてる人に「信用してほしい」なんて言われて、「うん」と言わない人がいるわけない。

「ねえ、1回もマリウスで泣いたことないんよね」

「え、うん…映画でも舞台でもないよ」

「じゃあ、俺があのシーンで泣かせてみせるわ」

「えっ」

それは、思ってもみない提案だった。

「約束する。Aちゃんを初めてマリウスで泣かせるっていう。我ながらどんな約束やねん思うけど。だから…ちゃんと観に来て」

宏規くんの顔は微笑んでるのに、いたって真剣な表情で。……変な約束だと思ったけど、約束されることにした。

「なにその約束……観に行くに決まってるじゃん。宏規くんの大事な舞台だもん」

そう言うと、宏規くんの表情は緩んだ。

さっきの優しいのに真剣な表情に見惚れてしまったことは、私でも絶対に言えない。