初恋の幻影【現代篇】

あなたに会えたら（１） ページ7

*


「雨…酷くなってきたなぁ…」


キャバクラが開店してしばらくした頃。
窓越しに空を仰いで溜息をついた。

昼間は雲一つない晴天だったのに、今では雨が降り頻っている。
せっかく掃除に精を出して取り組んだのにな。



「おっ妙さぁぁあん！！」




気落ちした私を他所に、玄関付近で惚気全開の妙ちゃんを呼ぶ声が店内に響く。
そしてその声を上回るほどの鈍い拳の音は、店を揺らした。



(近藤さん、ご愁傷様)



目を閉じて合掌をすると、煙草の匂いがふわりと香る。
その脇に上司のあらぬ姿に頭を抱える土方さんの姿があった。




「あら、土方さん。いらっしゃい」

「ああ…しばらく厄介になる」





軽く挨拶をすると、あっという間に彼の周りを黄色い声が囲んでいった。

キャッキャと弾む声にげんなりとした様子でボーイを呼ぶと、迷いもなく私を指名する。




「…相変わらず罪なお方ね」

「うるせぇ。煽るんじゃねぇよ」

「あら、女殺しだってウチでは有名ですよ」





マヨラーさえ除けばねとひっそりと心の中で呟きながら席に案内し、お絞りを渡してお酒を作る。


土方さんは真選組の副長さんで、よくお店に顔を出す常連さん。

まあ、彼も近藤さんの連れとして付き合ってるだけなんだろうけれど。




「お足元の悪い中、来ていただいてありがとうございます」

「酒の付き合いも上司の尻拭いも部下の仕事だからな」

「ふふ。近藤さんも頼もしい部下を持てて幸せでしょうね」





そう言って並々のお酒を土方さんに渡し、ちらりと彼の顔を伺ってみる。


クールな顔つきと漆黒の髪、男らしい声と佇まい。
誰がどう見ても男前な土方さんに、気になる女の類いの質問を投げかけてみる。




「ーー土方さんは大切な人っています？」

「な…なんだよいきなり」

「だって、二枚目で硬派な副長さんなら一人や二人いてもおかしくないでしょう？」

「いねーよ。そういうお前はどうなんだ」




あ、話逸らした。


お酒をぐいっと飲み干し、いそいそと煙草に火を点ける土方さん。
うまく交わされた質問返しに理不尽だなんだと思いながらも、すぐさま浮かんでくるのは晋助の顔だった。



最近はーー晋助のことばかり考えてる。

仕事中もお客さんの相手をしている最中でさえ、彼の存在が私を支配する。


でもそれは周りの影響も関連してて、一時的な感情なのかもしれないし。

大切な人というより、今では大切な思い出という方がしっくりくるような気もする。

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