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おもいびと(1) ページ37

*


早朝。
手荷物を片し、静かに襖を開けて居間に足を踏み入れる。

テーブルの上に置き手紙をそっと置き、名残惜しむように辺りを見渡した。


私はーーここを出ることを決心した。

覚悟として。けじめとして。


みんなの優しさに甘えるばかりの自分が惨めで。
一度生活を戻して、心を落ち着かせるべきだと悟った。

ひっそりと姿を消そう。

じゃないとーー泣いてしまうから。
また、みんなの優しさに甘えちゃうから。

緩む涙腺に唇を噛み締めてなんとか留める。




「ーー何も言わずにサヨナラなんざ随分ひでぇ仕打ちじゃねーかコノヤロー」




背後から聞こえた声音。

振り返れば、腕を組んで壁に寄り掛かる銀時の姿。




「銀時…」

「んな泣きそうな顔してんじゃねぇよ」




ーー最後にと思ってな。

そう言って差し出された羽織り。
艶やかなその模様は、見覚えのある羽織りだった。



「これ…」

「お前が熱で倒れた時、最初にお前を見つけたのは高杉だ」




ここに来た経緯から住まう理由。
一つ一つを辿る銀時の言葉に胸が熱くなり、受け取った羽織を握り締める。



ーー嗚呼、あれは夢じゃなかった。

本当にあの時、晋助は私に会いに来てくれてたんだ。

じわりと浮かぶ涙を無造作に拭い、銀時の顔を見上げる。




「銀時。私、やっぱり晋助が好き」

「…ああ」

「大好きなの。だから銀時の気持ちには応えられない」



「ごめんなさい」で締められた会話。

そんな私の手を取り、そのまま大きな身体の中に吸い込まれるように抱き止められる。



「ぎんーー」

「滑稽なもんだ。どんなにお前を求めても答えは変わらねぇ。最初からわかってたはずなのにな」




顔を見なくともわかる切なさの中に混じる熱い想い。
更に力の入った温もりにそっと手を回す。




「なんかあったらいつでも言って来いよ」

「…うん」

「よし」




抱かれた腕の中で優しく頭を撫でられた後、解放された身体はそのまま玄関の方へと後押しされる。


銀時。

私はあなたにどれだけ救われたか。




「あのね、銀時ーー」

「行けよ」




振り絞るようなその声音。
突き放されたようなその言葉に彼の顔が見れなかった。


振り返るのは、よそう。
私は晋助に付いて行く、と決めたのだ。




「ありがとう」



最後に置いてきた言葉は、引き戸の閉まる音とともに儚く消えていった。

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宇治(プロフ) - 風寧さん» 風寧さん、こんにちは!宇治です。二度もコメントありがとうございます、嬉しいと言ってもらえてやる気滾ります。期待に応えられるよう頑張りますね!!これからもよろしくお願いします。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: c046a70699 (このIDを非表示/違反報告)
宇治(プロフ) - アガシャさん» 初めまして、宇治です。コメントありがとうございます。話数もだいぶ迫ってきましたので、続編という形を取らせていただきました。頑張ります…!今後ともよろしくお願いします。 (2019年4月2日 17時) (レス) id: c046a70699 (このIDを非表示/違反報告)
風寧 - 以前コメントさせて頂いた者です。続編のお知らせ、本当に嬉しいです!楽しみに待ってます! (2019年4月2日 1時) (レス) id: 56908df3cc (このIDを非表示/違反報告)
アガシャ - 続編ですか!嬉しいです!頑張って下さい! (2019年4月1日 14時) (レス) id: a554153f5f (このIDを非表示/違反報告)
宇治(プロフ) - 蓬さん» 初めまして、宇治です。嬉しいお言葉ありがとうございます。そう言ってもらえると、すこぶる執筆意欲が湧きます…!!今後の展開にご期待いただければ幸いです。ありがとうございました。 (2019年3月16日 20時) (レス) id: c046a70699 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:宇治 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/uji/  
作成日時:2019年1月20日 14時

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