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難しい作業が終わったようで、あとは簡単だからと私にミシンの前に座るように指示した三ツ谷。
三ツ谷はAの隣に座った。


真っ直ぐに縫えないし、糸は途中でなぜか絡まって、上手く縫えない自分に呆れてしまう。
タカちゃんが上手すぎるせいで、自分がさらに下手に見えてくる。


不器用すぎるAを見て、ここまで酷いとは…と苦笑いの三ツ谷。


「うーん…」

「ほら、ちゃんと前向いて座れ」


Aがミシンにちゃんと向き直して座ると、三ツ谷は後ろからAの手に自分の大きな手を覆いかぶせるようにして動かす。

突然後ろから覆い被さるようにしてきた彼にびっくりして思わずドキドキしてしまう。
正面だったら赤くなった顔が見えていたことを考えると、後ろからで良かったと少し安心した。

三ツ谷が一緒に縫い始めると途端に不思議と糸の方向は真っ直ぐになって、綺麗に布が重なって縫われていく。

至近距離で体がつくかつかないかのギリギリの距離感。くっつかれたらこの心臓の音もバレてしまうからもっと離れて欲しいと願うばかり。


きっと私のことを妹のようなやつだと思っているからこんなに距離を詰められるんだろうな、と思うと少し虚しくなる。自分は女の子としては見られてないんだな、と。



「タカちゃん、女の子相手に距離近くない?」


そんな事実にちょっとやけくそになり、彼を茶化すように言った。本人はどうせ無意識だった、なんて答えるんだろうな。


「ちゃんと相手は選んでるつもりだけどな」

「えっ」


返ってきた彼からの答えは予想もしてなかったものだった。後ろにいる彼の表情が見えないせいで、彼の言葉の真意が分からない。

本当にずるい男だ。


思わず手元が狂って、縫い目が曲がってしまった。怪我するからちゃんと前見ろ、と三谷が後ろから耳元で声をかける。


私よりも低い声、少しゴツゴツとした大きな手、耳元にかかる吐息、全ての要素に三谷がどんどん自分をおいてかっこいい男の人になってしまっていることを実感してドキドキしてしまう。


「こ、これで終わりだから!」


返し縫いをして、糸を糸切りばさみで断ち切る。
Aはそのまま作品を持ち、顔を見られないように足早にドアの方に向かった。


顔が赤いことが、好きな人に近づけて嬉しくて緩んだ口元が、バレないようにそのまま振り向かずに少し早口で言う。


「タカちゃん、ありがとう!先生に提出してくるから待ってて!」



そのまま早足に部室を後にした。

■→←■ Mituya Takashi



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Alice(プロフ) - きなこだいふくさん» 最後までお付き合いいただきありがとうございました…!そんな風に言っていただけて嬉しい限りです…!続編を作るかもしれないので、もし作った際はぜひよろしくお願い致します♡ (2022年4月2日 17時) (レス) id: fa28fe383f (このIDを非表示/違反報告)
きなこだいふく(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても面白い話がたくさんあり、私自身とても楽しく読み進めることができました。こんな神作をありがとうございます!そして、更新お疲れ様でした! (2022年4月2日 11時) (レス) @page46 id: 90c5be706c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Alice | 作成日時:2021年9月19日 20時

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