パンが織りなす恋2-KH ページ3
つい大きな音に気を取られてしまって。
パン屋に続く行列のもっと後方をぼんやり眺めていると。
僕の真後ろに並んでいた人と―向かい合う格好になっていた。
女性だから、僕のが背が高い分見下ろせる位置にその人はいて。
あれ・・・?この人、この位置、この視線になんか覚えが・・・。
デジャブのような〜奇妙な感覚に僕の記憶は取り巻かれて。
そうかと思ったら―突然。
鮮烈ともいえる映像が再生されていく。
グラスの中の赤い液体―ワインが。
それが生き物のようにグラスから飛び出して。
栄光の架け橋さながらの・・・放物線を描いていく。
そして、それは。
KH「あっ。A、さん・・・?」
そう。
それはこの人と僕の―サイアクの出会いだったはずで。
それなのに、この偶然の再会をサイアクとは思えないのは―なぜだろう?
このときの僕は、さっきの騒音以上に驚いてしまっていて〜まだ気付いてなかったけど。
多分僕は、どこかでこの人にまた会いたいと思っていたんだと思う。
いつだかのイベントで―僕らはあまりにサイアクの出会い方をして。
どうにか、この人の中の僕のイメージを情けないものから挽回したくて。
だけどそれができる術は・・・まだ僕には持ち得てなかったから。
そんなだから。
僕が目の前の人を思い出すのに―時間はそう長いことかからなかった。
貴方はこのときどんな気持ちでしたか?
Aさん。
A、ヌナは―。
*
つけていたマスクをそっと引き下げると。
Aさんは目を大きく開いて、ハッとした顔になった。
「ああっ!あなたは・・・!」
KH「う、あの。大きな声は・・・ちょっと;」
どうやら彼女も、わりとすぐ僕を思い出してくれたみたいで。
嬉しくはあるんだけど、それは〜まぁ。
あのインパクトの強かった出会い方のせいかもしれない。
でも、今この場で僕の名を大声で呼ばれるのには抵抗があったから。
僕は口元の前で人差し指を立てた。
Aさんはその意味を心得てくれたのか、コクリと何度か頷いた。
そして。
「まさかこんなところでお会いできるなんて。びっくりです」
KH「それは僕も、です」
声のトーンを抑えながらそう言うAさんに、僕は同意した。
だってここは、パン屋に続く行列の〜最後尾周辺だ。
何でよりにもよってこんなところで・・・。
でもそれが逆に良かったのかな?
またまじまじと視線を合わせた僕たちは。
揃ってぷっと吹き出していた。
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作者名:Mercury zero | 作者ホームページ:http://ameblo.jp/mercuryzero/
作成日時:2022年2月20日 14時