Episode73 ページ38
「物理、理解出来た?」
「教えてもらったとこは分かりましたよ。僕やっぱ物理好きです」
「そ?それはよかった」
伊沢が逆サイドにちょっかいをかけているのをいいことに、須貝は山本に話しかけた。
思い返せば、こうして山本ときちんと話をするのは初めてかもしれなかった。決して会話をしない訳では無いのだが、如何せん須貝はクイ研に入っていないため必然的に一緒にいる時間は他のメンバーよりも短い。
須貝としては山本は同じ理系仲間として好いているし、可愛い後輩だなと思っておるのだが山本は果たしてどうなのだろうか。
「あー…、山本さ、なんか今日最初の方ちょっと元気ないように見えたから。大丈夫かなって、思ってた」
目を合わせないで、聞いてみる。
もう夏バテか?なんてふざけたボケをかませるような雰囲気ではなく、須貝はチラチラと顔を向けないまま山本の様子を伺った。
「そ、んな露骨でしたか、僕」
「まあ、俺が隣にいたから気づいちゃっただけかもしれんけど」
「ごめんなさい、変な心配かけちゃって」
「いや、そういうつもりじゃ、」
お詫びの言葉を期待しているのではない。ただ単に山本が心配だっただけなのに、謝らせてしまった。
うーとかあーとか言って言葉が出てこない須貝を、山本は不思議そうな顔で見つめた。
「…何か心配事があるなら、相談に乗るよって言いたかったの。一応これでも、山本の先輩やってる身だしさ」
いつもこんなふざけてるやつに言われても説得感ないだろうけど、と言い訳のように最後に付け足せば、そんなことないですよと山本は笑い声を漏らした。
「本当に大したことじゃないんです。ただちょっと、壁を感じちゃって」
「壁?」
「はい」
それは、二年と一年の、ということだろうか。
でも俺らは自分で言うのもなんだが学年が違うなんて微塵も感じさせないほど仲がいい自信がある。
傍から見てもそうだし、実感としてもだ。
「僕、皆みたいに家が裕福じゃなくて」
「…俺だって、伊沢んちほど金持ちじゃないけど」
「それでも、この高校に通えるだけの財力はあるでしょ。僕、特待生入学じゃなくて学費免除して貰えなかったら、合格してもここ蹴る予定だったんですよ」
本当に、そういうレベルで皆さんと違うんです、と言う彼の声のトーンは、普段と全く変わったところはなくて。
チラ、とその顔を覗き込もうとするも、布団に隠れて見ることは出来なかった。
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Syuri(プロフ) - なつめさん» コメントにありがとうございます!やっぱり可能性コンビは可愛いですよね…私もいつもなつめさんの小説読んでによによしてます笑 これからもぜひ呼んでください! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませて頂いています。山本くんお誕生日…いやあ、最高でした!ラストそうきたかあー。先輩方のドタバタと、かわいい後輩くん達のやり取りが面白くって、いっぱい笑わせて頂きました。これからも楽しみにしてます! (2020年6月4日 11時) (レス) id: 6fb7510317 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - 怜さん» 嬉しい!ありがとうございます!本気で生徒会室に冷蔵庫あるんですか!!笑 個人的に無理矢理な設定だったかな〜なんて思ったりもしていたので、ちょっと安心です笑 しかも公立高校なのにすごいですね!!コメントありがとうございました…!! (2020年6月2日 7時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
怜(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます!山本さんお誕生日回…!たくさん更新されてて1人テンション上がってしまいました笑 以外余談。私ごく普通の公立高校生ですが何故か生徒会室に冷蔵庫あります…謎の親近感を覚えて楽しかったです!笑 (2020年6月2日 3時) (レス) id: 291ffdfed4 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - (名前)豆腐さん» 本当ですかありがとうございます!!最近更新時刻がバラバラになりがちになってしまっているんですけど、そう言って頂けるともっと更新頑張ろうって思えます!これからもよろしくお願いします…!! (2020年5月19日 16時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Syuri | 作成日時:2020年5月14日 0時