Episode49 ページ1
「うーん…今日はここまでにしよっか」
「……すみません」
「いやいや、まじで筋はいいと思うし!!また頑張ろ!」
そう言ってくれる福良さんの優しさに、またチクリと胸が痛んだ。
いつまでも出来ない自分に対する悔しさや苛立ちだけでなく、忙しい福良さんの時間を自分が奪ってしまっているという実感がより一層、俺を焦らせる。
「…もう一回だけ、いいですか」
少し上目遣いになりながらそう尋ねると、福良さんは何も言わずにじっと俺の顔を見つめる。
「…だめ」
「……」
「焦ってもいいことなんてないよ。大丈夫、本当にちゃんと上手くなってるから」
ぽん、と俺の頭に軽くてを乗せて、ちょっとトイレ行ってくるね、とそのまま教室を出ていく。
その福良さんの後ろ姿を見つめながら、深く息を吐き、冷静な気持ちでさっきの言葉を頭の中で反芻した。
…福良さんの、言う通りだ。
ムキになってどうする。落ち着いて、出来ることから確実に。
「…よし」
心を入れ替えて、顔を上げる。
…と。
「あれ」
福良さんが出て行って、そのまま開けっ放しになっている教室のドア。その先にある窓から、さらにその奥の廊下にゆら、と人影が動くのが見えた。
職員室の前の、廊下。
急いで時計を確認する。
最終下校時刻の30分前。…この前とまったく同じだ。
これって、まさか。でも、職員室の電気は消えてるし、でも、職員室に入って行ったってことは…。
呆然と立ち尽くし、色々な考えや混乱が頭の中を巡る中、長い黒髪をた靡かせて笑う、彼女の姿が頭に浮かぶ。
気がつくと、俺は走り出していた。
止めるべきだ。
他の誰かに咎められて、公になってしまう前に。
その前に、俺がー……。
必死で走る中でも、俺の頭は何故か冷静で。
早く着かなければいけない。でも、足音で気付かれて逃げられるわけにも行かない。
職員室までの道のりが、やけに長く感じた。
勢いよく廊下を曲がり、職員室の前に辿り着く、
「神崎さんっ……!!」
そこでまず俺の目に飛び込んできたのは、職員室の前で、思わず俺が出してしまった大声にビクッと肩を震わせた、神崎さんの姿だった。
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Syuri(プロフ) - なつめさん» コメントにありがとうございます!やっぱり可能性コンビは可愛いですよね…私もいつもなつめさんの小説読んでによによしてます笑 これからもぜひ呼んでください! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませて頂いています。山本くんお誕生日…いやあ、最高でした!ラストそうきたかあー。先輩方のドタバタと、かわいい後輩くん達のやり取りが面白くって、いっぱい笑わせて頂きました。これからも楽しみにしてます! (2020年6月4日 11時) (レス) id: 6fb7510317 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - 怜さん» 嬉しい!ありがとうございます!本気で生徒会室に冷蔵庫あるんですか!!笑 個人的に無理矢理な設定だったかな〜なんて思ったりもしていたので、ちょっと安心です笑 しかも公立高校なのにすごいですね!!コメントありがとうございました…!! (2020年6月2日 7時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
怜(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます!山本さんお誕生日回…!たくさん更新されてて1人テンション上がってしまいました笑 以外余談。私ごく普通の公立高校生ですが何故か生徒会室に冷蔵庫あります…謎の親近感を覚えて楽しかったです!笑 (2020年6月2日 3時) (レス) id: 291ffdfed4 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - (名前)豆腐さん» 本当ですかありがとうございます!!最近更新時刻がバラバラになりがちになってしまっているんですけど、そう言って頂けるともっと更新頑張ろうって思えます!これからもよろしくお願いします…!! (2020年5月19日 16時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Syuri | 作成日時:2020年5月14日 0時