逃した魚は5m_2[歌い手]

ルート2_終 ページ21

歌詞「あのさ、Aちゃん。」


『？どうかしました？』

あのあと付き合い始めた二人は、円満な恋人生活を送っていた。
しかし、歌詞太郎には1つだけずっと気になっていることがあった。


歌詞「僕のライブ、次も見に来るんだよね？」

『当たり前じゃないですか！』

これからも行く予定です、と笑うAの純粋な笑顔に、言葉を詰まらせる。

　
来てくれることは嬉しい。

しかし正直の所を言うと、ライブを見に来られるのを少し恥ずかしいと感じていた。


性格に裏表がある、という訳ではないが家での歌詞太郎とステージでの歌詞太郎は多少違う。
ステージに立てばお客さんへのサービスとして、明るく振る舞ったり笑顔にしたりすることなんて当たり前だ。

家での自分、つまり恋人としての自分よりもシンガーソングライターの伊東歌詞太郎の方が魅力的だと思われたらどうしよう。

根本的にあったのは、仕事中の自分への嫉妬である。

　
歌詞「嬉しいんだけどさ。その……、」


『あ、歌詞太郎さんが歌を歌ってなくても、私は好きですよ。歌詞太郎さんは歌詞太郎さんですから。』

シンガーソングライターの歌詞太郎さんも、勿論応援してますけどね！と、付け足したAを見て、歌詞太郎は顔を赤くした。

思ってることを当ててくる所も、嬉しいことを言ってくれる所も、本当に敵わないなぁ……。
そんなのろけを考えながら頭をかく。
　


歌詞「……自分に嫉妬するとか、末期だよね。ホント。」
　

『歌詞太郎さんが嫉妬するのって意外でしたけど、……何か嬉しいです。』
　

歌詞「え？」
　

『他の人は知らないことを、私だけが知ってる……みたいな。あ、待って。やっぱ恥ずかしいんで今の取り消しで！』

　


即効前言撤回を申し出たAに、思わず吹き出した歌詞太郎は、愛しい彼女を後ろから優しく抱き締めた。


　
　
部屋に自分のグッズがどんどん増えて、歌詞太郎が本気で自分自身に嫉妬する様になるのは、もう少し先の話。

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