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二十一輪 ページ22

必死に水を漕ぎ、太ももから下をバタつかせて前に進む。
更に息継ぎも加わるけん、慣れんと辛い。
迂回した時、私の体が悲鳴を上げた。
細かく言うなら、私の脚が。
両脚の太ももが、同時に攣ってしまったのだ。
あ「っ…!」
その痛みは尋常や無く、私を襲う。
この数日間はほぼ毎日プールで練習しとった。
水の中で体を酷使した代償が、まさかここで来るとは。
せめて一日置いて欲しかった。
でも、それを言い訳にして負けたくは無か。
ここでスピードを落とすと、
後に控えるクラスメイトが辛か事になる。
そう思うと、余計に体に力が入る。
それに、やるからには手を抜きたくなか。
進もうとすればする程、体が怠くなってくるのを感じる。
後少しという所で、とうとう脚の自由が利かなくなってしまった。
『アルト!』
どこからか、リナの声が聞こえる。
隣で水面が大きく波打つ音。
そのまま私は誰かに抱きかかえられ、プールから脱出した。

いつの間にか、気を失っていた様だ。
目が覚めると、白い壁と医療道具が私の目に映った。
私はベッドから上半身を起こした。
もう脚は痛くない。
太ももには温かい感触。湿布だ。
稲「あ、起きた。」
遠くから良く知った声がして、そちらを向く。
カッターシャツと制服のズボンを着こなした声の主…
稲野ちゃんがこちらに来て、ベッドから椅子を引き出して座る。
稲「脚、もう大丈夫?」
あ「うん。もう痛くなか。」
稲「本当に?」
あ「本当や。
それより稲野ちゃん、戻らんで良いん?」
稲「うん。だってもう俺の出番終わったもん。」
言われてみれば、稲野ちゃんの髪が艶々と濡れている。
私はどんだけ長い時間気絶しとったんや。
あ「リナは?」
稲「ちょうど泳いでるんじゃない?」
あ「戻らな…。」
稲「言うと思った。でもまだ動いちゃ駄目。
安全を取って、後三十分は休ませろって先生に言われたし。
治んなくなったらどうすんの。」
稲野ちゃんに手と言葉で静止されてしまう。
稲「後でリナに、どうなったか聞こうよ。」
あ「…うん。」
彼の説得に、私はただ頷くしかなかった。

そういえば、誰が私をここまで連れてきてくれたんやろ?
そう訊くと、彼からこんな言葉が。
稲「連れてきたのは俺とブンブン先生だよ。
直接助けたのはリナだけど。」
あ「リナが?」
稲「うん。周りの先生からは止められてたけどね。
本当、無茶する所は似てるよね。」
あ「…。」
私はリナへの感謝や申し訳無さに、胸が苦しくなった。
後でお礼言わな、ね。

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螢羅(K-Ra)(プロフ) - 緑月翡翠さん» いつもありがとうございます!フランス語を取り入れるのは初めてだったのですが、書いていたら楽しくて楽しくて…!毎日更新、出来れば良いんですけどねえ…。貴重なご意見ありがとうございます! (2017年4月20日 7時) (レス) id: 575549c323 (このIDを非表示/違反報告)
緑月翡翠(プロフ) - 完結おめでとうございます!フランスや花言葉は私も大好きで、とても良かったです…!読者としては毎日更新が嬉しいのですが、ご多忙なようなので時間があれば、という形がいいと思います。次作も楽しみにしています!長文失礼しましたm(__)m (2017年4月20日 6時) (携帯から) (レス) id: b835eb55b1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:螢羅(K-Ra) | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2017年3月3日 20時

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