11ページ From:私 ページ12
や「ごめん、遅くなっちゃった。」
お腹に回された腕を、そっと撫でる。
『…気にしてませんよ。だから謝らないで下さい。』
や「もし俺が先に帰ってたらどうしてたの。」
『多分、ずっと待ってますよ。
でも今までで一度も、先に帰った事なんか無かったじゃないですか。』
彼はもう、と言いつつも、腕に力を込めてくる。
そろそろ、先生の顔が見たい。
そう伝えて一度腕を離してもらう。
少し距離が離れたかと思うと、また抱き寄せられた。
今度は互いに向き合って、腰の辺りに腕を回されている。
私も同じ様にして返すと、自然と胸の辺りを彼に押し付ける形になった。
何となく気恥ずかしいからか、彼の顔が見たいのに見られなくなってくる。
それでもおずおずと見上げると、淡く微笑み掛けてきた。
私しか知らない、誰よりも優しい表情。
私の一番好きな彼の表情。
吸い寄せられる様に背伸びをして、その唇にそっと口付けた。
数秒程経って、唇を離す。
彼の白い肌は微かな桃色に上気し、どこか幼さを感じるまでに思える。
気恥ずかしさを紛らわせる為に、無理矢理話題を作る。
『……林間学校、楽しみですね。』
や「…理華さんも行くんだね。」
『行っては駄目なんですか?』
や「そうは言ってないでしょ。」
一言ずつの会話だけど、それでもどこか
暖かく感じるのは彼の人柄からか。
『林間学校でのグループ、やんわり先生と一緒が良いなあ。』
や「なると良いね。」
ホームルームの時に貰ったお知らせのプリントを見る限りでは、
行った先で一緒に行動するグループが決められるそう。
大抵は好きな人同士で組まれるらしいけど、
その好きな人がやんわり先生である私はどうしたら良いのだろう?
『色仕掛けしたら、同じグループにしてくれますか?』
や「冗談でもそんな事言うの止めなさい。
それが許されるのはジュディ・ガーランド位だよ。」
私がミュージカルが好きと言っていたからか、
たまに織り交ぜられるそれ系統の言葉に嬉しく感じる。
『ジュディは極端過ぎますよ。だって
あの人は現場のスタッフ全員と…きゃっ!』
先程よりも強く抱き締められ、言葉を途中で遮られる。
や「そこから先は言わせない。俺が恥ずかしくなるもの。」
『何で先生が…?』
や「…察してよ、俺の恋人さん。」
恥ずかしそうに耳元で響く声に、胸に伝わる彼の心音。
少し早口だったのも手伝って、年上である筈の彼が可愛らしく思える。
私達は廊下から聞こえる足音に気付くまで、
ずっと抱き締め合っていた。
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