始まり ページ26
いつもとは少し落ち着かない気持ちで目覚めた朝
カーテンを開けて見上げれば
空を覆う薄墨色の雲
その向こうで輝く太陽が透けたようにぼんやりと映っている
それはまるで
俺の今の心みたい
家族に見送られて向かった先は、学校近くの公園
大きな木の下のベンチに座って仰ぎ見れば
春を待つ、まだ固い薄桃色の蕾
空は
まだ晴れない
「やっぱり、ここにいた。」
どれくらいここにいただろう
懐かしい声に視線を移せば
また少し大人になった彼がいた
「卒業式、出なくていいのか？」
「…俺がいなくても、誰も気付かないよ。」
「そう思ってるのはお前だけだと思うけどなぁ」なんて、ボソボソ呟きながら
俺の隣によいしょ、と腰を下ろす
「もう2年かぁ…早いな…」
そう、2年前
彼はここを離れ、東京の大学へと進学した
俺を一人残して
「あん時のお前、めっちゃ拗ねてたもんなぁ。口利いてくんねぇの。」
そう言って、俺を見る度笑うけど
「お前の部屋、探して来てやったぞ。」
来年から俺も
彼と同じ大学へ行く
「めっちゃ探したわぁ。お前の気に入りそうな所全然なくてさぁ。」
大学に合格した時、彼と一緒に探したアパート
結局決まらなくて、彼が代わりに探してやると言ってくれた
「けど、良いとこ決まったぞ。2LDKで南向き。大学にも近いしさ。」
「ちょ、ちょっと待って！」
「ん？」
「なんでそんな広い部屋なんだよ。俺一人暮らしだぞ！」
一体、家賃いくらだよ…
焦る俺の髪をくしゃりと撫でる彼の暖かい手
「俺、寮を出ることにしたんだ。」
「え？」
「お前の事迎えに来た。」
「ひろっ…」
「一緒に暮らそう。」
いつの間にか雲は切れて
白い太陽が顔を出し、景色はキラキラと輝きだす
暗かった心に、光が差すみたいに
「ずっと待ってた。」
「ごめんな。長い間、寂しい思いさせて。」
「…迎えに来たから許す。」
「ふふっ。これからはずっと一緒だ。」
「うん。」
「太輔。」
「ん？」
「卒業、おめでとう。」
END
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作者名：MISA
| 作成日時：2018年3月2日 10時
