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episode8 ページ9

私はひと通り泣ききり、少しだけ気持ちが楽になった。



「よっしゃ!帰ろっか」



三奈が私の荷物をまとめて椅子から立ち上がった。


私の辛さをわかってくれているからこそ、彼女は何も言わなかった。



「でも、切島は……」



私が保健室に運ばれたあとから行方不明の切島が気になった。

切島だけじゃない。上鳴くんも。



「今日は上鳴も切島もそっとしておこ。Aもはやく帰って体休めなきゃ!個性大量に使うわ電気浴びるわでクタクタでしょ」



私は三奈から鞄を受け取る。



「うん……そうだね。今日は大人しく帰ろうかな」



迷ったが、今切島と上鳴くんに会ったところで私が何かできるわけではない。



「うんうん!!そう言えばA今日傘持ってきてないの?」

「うん、まさか雨降るなんて……」

「嘘ー!天気予報みてないの?!しょうがないからあたしの傘入れてあげる」



私は三奈にお礼をし、和気あいあいと話を続けながら保健室を出た。



ドアの横に、1本の傘が置いてあった。


その傘からは雫が伝っていて、廊下を濡らしていた。



「もーこんなところに濡れた置いたの誰?」



三奈はこう見えて昔から正義感が強く、濡れたままの傘を玄関に持っていこうとしていた。



三奈が持ち上げた傘から、1枚の紙切れが落ちてきた。



私はそれを拾い上げる。


そして、無意識に折り畳まれた紙切れを開いて見てしまった。



__A、さっきはごめん。風邪ひかれると嫌だから。これ使って。



読みずらい字だった。


そして右下に『上鳴』と書いてあるのを見つける。



「なにそれー?」



三奈が紙切れを不思議そうに見て訊ねてきた。



「この傘、上鳴くんのだ。私が傘持ってきてないの知ってて貸してくれるって……」

「これ上鳴のなの!?あいついつの間にここまで来てたんだろ」



廊下に垂れた水はまだ少量で、彼が来たのがついさっきだと言うことを物語っていた。



私は思わず周りを見渡して、彼の姿を探してしまう。


だけど見当たらなかった。


見つけたとしても、追いかける資格はなかった。



「A、この傘使いな。また今度返せる時にあたしから上鳴に返しとくよ」



三奈は私に傘を差し出した。

私はそれを受け取る。


彼の優しさに、またひとつ彼を想う気持ちが強くなった。



「よし!じゃあ帰ろうか!!」

「うん」



こうして私は彼の傘を差して、三奈と一緒に帰った。



心の片隅で、上鳴くんと切島のことが引っかかったまま。

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作者名:さくら | 作成日時:2020年5月26日 9時

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