episode3 ページ4
私はとりあえず置いてあった椅子に腰かけた。
「あの、事件のこと、覚えてないんだよね」
私がそう訊ねると、彼は眉間にシワを寄せた。
「事件……。医者も警察もそんなこと言ってたけど、俺心当たりないんだよね」
「そっか」
私はどうしていいかわからなかった。
とりあえずお礼の言葉を言えばいいのか、謝った方がいいのか。
でも記憶がない彼に急にそんなことしても困らせてしまうだけだ。
「その事件に、與さんは関係しているの?」
「……何も聞いてないの?」
「聞いてないって言うか、他人事みたいで聞こえてなかったって言うか……」
彼は気まずそうに頭を搔く。
「もう1回與さんから説明してよ。俺ちゃんと聞くからさ」
そう言われて、私は今回の事件について一通り説明した。
やっぱり彼は他人事のように聞いていた。
「俺派手なことしてんなー」
「うん、でも、ありがとう。助けてくれて。それと、ごめんなさい」
私は言いたかったことを言った。
「覚えてねえけど、おう。どういたしまして」
彼ははにかんだ。
笑顔がとても似合う人だった。
「ねえ、今度は私から1つ訊いていい?」
「ん?」
「なんで私の名前知ってるの?」
私は彼を知らなかった。一方的に認知されてたのか。
彼は「あー……」とだけ言い、しばらく黙り込んだ。
そして、口を開いた。
「同じ学校だから」
「え?同じ学校って……」
「雄英生でしょ。與さん。経営科の」
彼が同じ学校だなんて。
てことは、同級生か先輩。
すっかり年下に見えていて、敬語を使うことを忘れてしまっていた。
「逆になんで俺のこと知らないかなー。そこそこ有名人なんだけど」
「え、そうなの?」
「ううん、嘘」
また笑った。つられて私も口元が緩んだ。
彼はベッドから足を降ろして、こちらを向いて座った。
「俺、1年A組の上鳴電気。よろしくな」
そう言って手を差し出された。
A組。
「ヒーロー科?」
私は手を握り返せずにいると、彼は私の手をすくって無理やり握手した。
「そう!ヒーロー科!」
道理で、あんな状況でヴィランに立ち向かったのか。
そう思っていると、突然彼の身体中に電気が走り出した。
私は慌てて手を離す。
……やってしまった。
「うわ、なんだこれ。俺個性使ってねえぞ」
「それ、私の個性!ごめんなさい、とりあえず、深呼吸繰り返して!」
個性が意思もなく発動してしまうその理由を私は知っていた。
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作者名:さくら | 作成日時:2020年5月26日 9時