episode21 ページ22
ここまでは文通を通して私もある程度は知っていた、上鳴くんの記憶。
ここからは彼しか知らないもので、今までとは違った感覚が私を襲った。
夏休みも文通を続けたいと書いた私に返事を書き、ノートを私の下駄箱に入れにいった時切島に止められたこと。
私の個性について全て聞かされ、気持ちが変わったこと。
そして、もう会えないことを書いたノートをいつもみたいに下駄箱に入れることができなくて切島に渡したこと。
あまりにも淡々と話されるから、あまり現実味がなかった。
「Aを忘れようと、皆に心配をかけないようにといつも通りを振舞って、そのまま夏休みに入った」
林間合宿の準備やらで私のことを考える暇もないまま高校生最初の夏休みが過ぎていった。
そして林間合宿の日。
私があんな目にあって居ることにも気づけず、A組もヴィランの対応に追われていた。
そして一悶着ついたあとに三奈からこのことを聞かされ、切島たちと3人でお見舞いにきた。
「何をすることが正しかったのかわからなかった。ヴィランに拐われて意識を失ったAを見て、ヒーローを目指すって何なのかわからなくなった」
上鳴くんは何も悪くない。
文通を続けてても続けてなくてもこうなることは避けられなかった。
酷く落ち込んでいる上鳴くんを見て、私も同じように胸を痛める。
どうすれば彼を励ませるのか。
今、私にできることはないのか。
元気を、供給できたらいいのに。
なんて都合いいことを考えてしまう。
供給の文字と同時に、ある記憶が蘇った。
そして私は咄嗟に上鳴くんの手を握った。
当然、彼は驚いているようだった。
私自身、こうして自分から誰かの手を握る_ましてや好きな人_ことなんてないから、握った手から鼓動が相手に伝わってしまうのではないかと思うくらい緊張した。
恥ずかしさをこらえる為に強く目を瞑る。
「始めて、上鳴くんに触れた時のこと覚えてる?」
「……おう」
戸惑いを隠しきれてない返事だった。
「私がヴィランに襲われて、私の個性のせいで周りも助けに入ってこれなくて。私、ここで死んじゃうのかなって思った」
「うん」
「あんな個性だったから今まで恋とかしてきてなかったけど、誰かを愛することに凄く憧れてて。死ぬ前に、誰かを愛してみたかったなんて思ってたらいきなり誰かが突っ込んできて」
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作者名：さくら | 作成日時：2020年5月26日 9時
