episode20 ページ21
「最初はなんで避けられてるのか全く分からなくて、俺のこと嫌いならもっと突き放す筈なのに、そんな風には見えなかった」
それを聞いて、私が取ってきた中途半端な行動が上鳴くんを傷つけてしまっていたことを深く反省した。
ごめんなさいなんて謝る隙も与えてくれず、彼は話を続ける。
「Aは俺と関わるのが嫌なんじゃなくて、なんかもっと大きいものと闘ってるように見えた。あの時の俺は気づけなかったけど、たぶん、自分の個性と向き合おうとしてたんだと思う」
上鳴くんはそう言ってくれたが、向き合おうしてたんじゃなくて、逃げてた。
そんなの今更言っても仕方ないから、言わずに置いた。
「Aは何か、1人でもがいてるように見えてて……」
__水中を掻いても前に進まないような。
彼からその言葉が出てきた時、同じこと思っていたなと数ヶ月前の出来事を思い出す。
「俺が支えてやりたい、もっとAのことをよく知って、力になってやりたい。そう思ってダメ元で手紙のやり取りを提案した。そしたらまさかのオッケーだった」
当時のことを思い出したのか、彼の顔が少し緩んだ。
私も手紙のやり取りを提案された時は悩んで三奈に相談したな、と懐かしむ。
自分の気持ちに正直になって、文通することを決めた時は少しだけ強くなれた気がした。
「Aが普段何してるかとか何考えてるかとか知れて嬉しかったし、俺のことも知ってほしかった」
ノートいっぱいに書かれた彼の字を思い出して、愛しさで泣きそうになる。
私は泣かないようにとゆっくり深呼吸をした。
そんなことに気づいてない彼は話を続ける。
「俺欲張りだから文通なんかじゃ足りなくて。だから少しの期待も込めて、会いたいなんてクサいこと毎回書いてた」
「恥ずかしい」と彼は頬を掻く。
こんな色んな表情するんだと、文通では決して気づけないことを今知れて嬉しくなった。
こうやって相手の話を聞いてると、当時の自分の思いと重なる。
まるでひとつのパズルのピースを2人で組み合わせているような、そんな不思議な気持ちになった。
「夏休みに入るってなって、学校来れないんじゃAと文通もできなくなるって思ったら居ても立っても居られなくなった。でもAからのノート見てそう思ってるのが俺だけじゃないってわかって嬉しかった」
あの時、緊張しながら夏休みも文通を続けたいと書いた。
今、書いてよかったと思えた。
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作者名：さくら | 作成日時：2020年5月26日 9時
