episode18 ページ19
皆は驚きで声が出ていないようだった。
そんな中、私は何となく覚悟ができていた。
「この結果が、與さんに取ってどういうものになるかはわからないけど、今言えることは、君は普通の人間になったということ」
普通の人間。
この世界での普通とは一体何なのだろう。
世界総人口の8割が特異体質である中での普通。
それは異常ということだった。
「ちょっと、気持ちが整理できてないです。だけど、先生の仰ることはわかりました」
私がそう言うと、「落ち着くまで、いくらでもいて大丈夫だよ」と言い残して医者は外に出ていった。
相変わらず皆は何も話さなかった。
「さっき目が覚めたとき、悪い夢でも見たのかなって思ってた」
突然口を開いた私に、皆は驚いているようだった。が、相変わらず黙ったままだった。
私は話を続ける。
「目を開けたら、大好きな皆が目の前にいて。だからさっきまで悪い夢でも見てたんだ、ノートに書いてあったことも、死柄木弔が目の前にいたことも、怖くて身体が動かなかったことも全部夢だったんだって思った」
いつも通り三奈と切島が傍にいたし、会えないって言われた筈なのに上鳴くんもここにいてくれる。
「なのに……」
私の頭の中にこびり付いて離れないそれは、暖かい気持ちを蝕んでいった。
「個性、なくなっちゃった」
わかっていた筈なのに、口に出すのが難しかった。こんなにも声が震えるなんて思わなくて、情けない気持ちになる。
もう心は渇いてるのに、涙が出てくる。
こんな泣ける程の水分どこに残ってるって言うのか。
俯いたままの私の頭を、温かい何かが優しく触れる。
三奈の手だった。
「あたしも切島も、上鳴もいるじゃん。Aは3人のヒーローから守ってもらえるんだよ?Aが自分の気持ちをはっきり決めるまで待ってるから」
私の気持ち。
個性がなくなったって、私には心強い味方がいる。
何回も何回も苦難を乗り越えてきた皆が傍にいてくれる。
だから、私の気持ち。もう決まってる。
「受け入れるよ」
今までは嫌なほど与えてきた個性。
今度は無個性を受け入れなければいけない。
私は顔をあげた。
横を見れば皆が安心したようにこちらを見ていた。
「よっしゃー!!そうと決まったらあたしらも立派なヒーローにならなきゃ!」
「ありがとう。三奈」
「どういたしまして!」
あまりにも元気に笑うものだから、私もつられて笑ってしまった。
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作者名：さくら | 作成日時：2020年5月26日 9時
