episode16 ページ17
「死柄木……弔……?」
そいつの名を口にすると、奴は口を開いた。
「そうか、俺の名を知っているのか」
満足そうに笑うそいつの笑顔が、私には恐怖にしか感じられなかった。
死柄木弔。ということはヴィラン連合。
私は頭を整理する暇も抵抗する暇もなく、そのまま何かに引きずられ、ヴィラン連合と思われる人達と黒いモヤの中に吸い込まれていった。
そして出てきた場所は、気味の悪い施設のようなところだった。
そこにはかろうじて人の形を成している男らしき人が立っていた。
顔はよく見えない。
「やあ、よく来てくれたね。與Aさん」
そいつは私の名前を知っていた。
そして、その声は弾んでいて、このシチュエーションを楽しんでいるようだった。
「お前たちもよくやった」
「こんな奴、さらってくる分にはチョロかった」
死柄木弔にチョロいと言われて私は悔しかった。
が、何もできなかった。
情けないことに、恐怖で声も出ない。
「君の個性を少し前に偶然見かけたんだが、とても素敵な個性だと思ったよ。今だって、そんな素敵な個性が暴走しているのが見てわかる。それは恐怖からか?大丈夫。何も怖いことなんかない」
奴の言う通り、私の個性は暴走していた。
「ただ、その個性、君が持っているのはもったいないと思ったんだ」
私が喋れないことをいいことに、話を続ける。
「僕はそんな個性を貰うことができるんだ。ほら、君もすぐあの子みたいになれるよ」
そう言って顔を向けた先には、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのラグドール__らしき女の人__が意識を失って寝かされているようだった。
あの有名なヒーローが、どうしてこんな所に……。
"あの子みたいになれるよ"
その言葉が頭の中をよぎった。
その瞬間、今までに感じたことのない恐怖が私を包みこんだ。
何とか抵抗したかったが、体も動かなければ、声も出ない。
迫り来る恐怖に、瞬きもできないどころか、呼吸の仕方さえ忘れていた。
冷や汗が私の体を伝っていく。
「酷く怯えているようだね。これは直ぐにでも安心させてあげなければならない。楽にしてあげるよ。では……」
__その個性、頂いていくよ。
口だけしかないそいつの顔が迫ってきたところで、私の記憶は途切れた。
その瞬間まで私を支配したあの恐怖を、私は一生忘れることはないだろう。
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作者名：さくら | 作成日時：2020年5月26日 9時
