君がいなくなる前に

二十一 ページ23

小松田



天女さま、じゃなくてエリザちゃんに助けられた。

ドジをやらかして井戸に落ちそうになった僕を助けてくれた。



まだ、正直言って警戒心はあるけれども、エリザちゃんは決して今までのようなタチの悪い天女さまたちと同じではないと思った。

何というか、僕たちの事を決して見下したりせず、同じ人間として接してくれている感じがした。
そして、それが出来るのは強いからだと僕は知っている。


エリザちゃんはとても美しい。

若いからとか、元の素材が、とかもあるけれど、それを除いてもとても美しい。
井戸を何とも言えない無表情で覗き込んでいる様子は、今まで見てきた物の中で一番神聖に見えた。



本人は「天女さま」と呼ばれるのを嫌がったし、昨夜、学園長先生に今までの天女が何をしてきたかを聞かされている時に眉をひそめて嫌悪感を露わにしていた様子は、とても人間らしく、その目は恐ろしく冷たかった。前の天女さまたちが僕を殴る時に見せた表情よりもずっと。

けれど、それでも、エリザちゃんとお話しした時に見せてくれたあの笑顔とか、大勢の強い殺気を浴びながらもそれを跳ね除けて歩く姿とか、そういうものが、とても印象的なんだ。



もしかしたら、また僕たちは騙されるのかもしれないけど、そしたら僕は、もうここには居られないんだと。


そう思い、手拭いをぎりっと絞った。

二十二→←二十

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す