59☆毎日ここに ページ9
入道雲が目立つ夏空の下をトンボが飛んでいく。
もう一度調査しようと思ってゲームセンターに
やってきたAは、顔の汗を拭った。
中に入るとAは、
トレーサーを使って調査する。
「ダメか……。
新しい手がかりは無しか……」
うなだれて、Aは歩き出した。と、向こう側のカード売り場に、トウマがいたのに気がつく。
「Aさん、今日も調査？」
こちらに気がついたトウマの声に「あ、うん」と応えると、彼はAのいる方へやってきた。
「ねえ、やっぱり僕にも手伝わせてよ。
絶対役に立つから」
Aは少し困ったような顔をして、
「うーん」という。
「所長のOKがないとダメだよ」
「あのおじさん？今日は一緒じゃないの？」
「所長は研究所で研究中だよ」
話しながら、Aはふと、
トウマの手元を見た。
手首に、黒くてスポーティーなデザインの
腕時計がついている。
なぜか、不思議な感じがした。
Aが何か言おうとしたとき、
トウマが先に口を開いた。
「そっか。
まあいいよ。いずれ僕もLUNAのメンバーになるから、
そのときはよろしく」
そんなトウマを見ながら、Aは微笑する。
「と、トウマ君は前向きだなぁ……」
「そうかな？
そうだ、サマーカップだけど、
君のエントリーしておいたよ」
とトウマはAの顔を見た。
「えっ、えー!?
こ、困るよそんなの！」
Aがそう言うとトウマは落ち着き払った様子で、
さらに口を開く。
「大丈夫だよ。そんなに焦らなくても」
「まいったなぁ……」
そのとき、ゲームセンターの入り口から、
１人の女性が中へ入ってきた。
女性は恐る恐るまわりの様子をうかがうと、
ゆっくりと歩き出す。
その女性のことをちゃんと覚えていたAは「あれは……依頼人……伸也さんのお母さん」とそちらを向いた。
依頼人……三田邦子は、
電光石火時代のコーナーを歩いていく。
「今日もか……」
とトウマは驚いた。
「『今日も』って？」
「伸也さんがいなくなってから、あの人、
毎日ここに来てるんだ」
とトウマは心配そうに目を細める。
「そっか……」
「寂しそうでさ……見てるとこっちも辛いよ」
やがて邦子はAに気がつき、
こちらへ歩いてきた。
「あ……あなたは、LUNAの……」
「ど、どうも……」
「調査をしてくれているんですね。
ありがとうございます」
邦子は疲れた顔で微笑んだ。
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作者名：惠里子 | 作成日時：2019年7月30日 19時
