86☆考えっぱなし ページ36
それから、特に何も起きないまま、１週間が過ぎたある日。
AはLUNAにやってきた。
所長が腕を組み、歩き回りながら
ブツブツと何か言っている。
「やはり力ずくでUMAを捕獲するのは良くないかも。
うーむ……どうするべきか」
「こんにちはー！」
Aがドアを開け、そう言って部屋に入ったが、
所長は反応を示さなかった。
「むーん……むむーん……」
「所長？」
Aは所長の顔をのぞき込んで声をかけるが、
所長の眼中にAはないようだ。
「フラッシュで目くらまし……いやいや、
普通の光ではなぁ」
「所長！」
今度は少し大きめの声で呼んでみるものの、
所長の耳には届いていないらしい。
「薬で眠らせる？いやいや、
そんな強い薬、手には入らんか……」
「所長……」
所長の肩を叩こうとしたAの手は途中で止まり、
そのままだらんと垂れ下がった。
「先週から、ずっとこの調子なのよ」
「日美子さん」
日美子は呆れたようにため息をつく。
「１日中、UMAを捕獲する方法を考えっぱなしなの」
「あはは……所長らしいですね」
Aが苦笑いすると、
日美子はAの耳元でささやいた。
「ご飯だって、ろくに食べてないのよ？」
「そ、それはちょっとまずいんじゃ？」
Aは改めて所長を見る。
確かに少し痩せたような気がした。
「まー、この人の場合、
誰が何言っても聞かないから……」
「じゃ、じゃあ私は、調査に行ってきますね」
それもそうか……と考えたAが部屋を出て行こうとすると、日美子が慌てて呼び止める。
「あ、だったら天野さん家に寄って行ってくれる？」
「いいですけど……何の用事です？」
日美子は机の引き出しから１枚の封筒を取り出した。
「この封筒をフミカさんに渡してきて」
Aは封筒を受け取る。光に透かしてみると、中にお札が入っているのが見えた。少しだが小銭も入っているようだ。
「お金が入ってる……」
「所長がためてたツケの代金よ」
所長、またフミカさんのところにツケをためてご飯を食べてたのか。そういえば以前もカレーを作ってもらっていたなとAは思い出した。
「あぁ、なるほど……」
「さすがは国の依頼ってところね。
今回の依頼金、いつもよりずっと多かったの。
悪いけど、フミカさんにはためちゃってたこと……」
「はい！謝っときます！」
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作者名：惠里子 | 作成日時：2019年7月30日 19時
