夜闇のお菓子*１ ページ16
ひぇっ。怖い怖い怖いっ！
「ちくせう。なんで課題のこと忘れちゃうかな」
窓から差し込む月明かりだけを頼りに、夢ノ咲の廊下を早足で歩く。時刻は丁度20時半。
家に一度帰ったものの教室にノートを置き忘れ。この時間だから諦めようかと思ったけれど、相手は声楽担当の椚先生。つまりお説教コースまっしぐら。仕方なく取りに戻ってきたのだ。
お化けとか無理なのに！早く家に帰ろ！
そんなことを思いながらスピードを上げた瞬間。微かに、楽器の音色が聞こえてきた。
「〜〜〜ッ、なに、えっなになに！！むり本当に無理！」
脳内に浮かび上がるのは、白装束を着た髪の長い女の人や、デロデロになって腐乱臭を撒き散らすゾンビの姿。
ポマード？！ ポマードって叫べばいい？！ それより塩？リセッシュ？ そもそもなんだよこの音なんで鳴ってんの！俺怖がりなの！わかる？！あっだんだんイラついてきた！！
「お、漢たるもの、これしきのことに怯んでたまるか！」
未知なるものと考えるから怖いんだ。
そうつまり音の原因がわかれば怖くなくなる……はず！
もう訳がわからない。けど恐怖でバカになった頭では、怖がらせやがって！許さん！正体を暴くしかない！と在らぬ方向に怒りをぶつけるしかなかったのだ。
*
それから。
辿り着いた扉の前で立ち止まった。
「ここ、か？」
息を殺しながらそれに耳をつける。……うん。やっぱりこの部屋だ。
ドアノブに手を掛けて。大丈夫。大丈夫。怖くない怖くない、と自己暗示をかけながら、ゆっくり慎重に、音を立てないように開ける。
「し、失礼しまぁす」
今にも心臓が飛び出しそうだけれど、意地で中を覗き込んで──目を、見張った。
「……え、……」
そこにいたのは、月明かりに照らされながらヴァイオリンを演奏するお兄さんだった。
窓辺に腰掛けるその表情はとても穏やかで、そしてどこか浮世離れしていて。気を抜くとその雰囲気に呑まれてしまいそうだった。
濡れ羽色をした癖のある髪の毛。
細く長い骨ばった男らしい手。
音色に聞き惚れていると、お兄さんは不意にヴァイオリンを弾く手を止めて、長いまつ毛を揺らした。次の瞬間、紅玉のような瞳に射抜かれる。
「誰じゃ」
少し掠れた声。
「ごっごめんなさい！盗み聞きをしちゃって、」
そこで、はた、と気づく。
……この人、本当に人間なのだろうか。
お兄さんは音もなく窓際から降りると、ゆっくり歩み寄り、俺の目の前でピタリと止まった。それから魅惑的に八重歯をちらりと覗かせた。
「これはこれは。珍しいお客さんじゃのう」
「ぴぇ」
人間じゃない、かも。
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苺バニラ(プロフ) - あんみつさん» コメントを返すのが遅れてしまい申し訳ありません、わざわざ教えてくださいりありがとうございます。確認次第すぐに直しますね。誤字のご指摘、助かりました！ (2020年5月2日 16時) (
レス) id: 04f16d165f (このIDを非表示/違反報告)
あんみつ - こんにちは。とても面白い作品で見入ってしまいました。半年前の作品に口を出して申し訳ないのですが、knightではなくknightsではありませんか？間違っていたら申し訳ございません。 (2020年4月19日 11時) (レス) id: e8e252d741 (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - アルカリさん» いつもご愛読ありがとうございます！作者として、読者さまに面白いと言ってもらえることが一番嬉しいです！これからも、満足していただけるよう精進していきます(*´ω｀*) (2019年10月7日 18時) (レス) id: 563228d52f (このIDを非表示/違反報告)
アルカリ - 長文失礼します。苺バニラさんの、小説は面白くていつも見ています。これからも更新頑張ってください!長文失礼しました。 (2019年10月7日 17時) (レス) id: f17e38f5ae (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - 錐餌八戸さん» コメントありがとうございます！零さんとの関係は家族てきな感じにしたいなぁと思っていたので、そう言っていただけると嬉しいです〜！これからも、おじいちゃんと孫コンビで頑張ってもらいたいですねぇ(*´ω｀*) (2019年9月15日 7時) (レス) id: 563228d52f (このIDを非表示/違反報告)
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