人違いの神様事件簿*1 ページ39
衝突事故で時間をかなりロスしたが、全速力で走ってなんとか間に合った。正門を突っ切り、昇降口へと急ぐ。
そして噴水を横切ったとき。
「………ん……?」
ふと視線の端に何かを捉えて、はたと足を止める。
一瞬気のせいかとも思ったが、もし現実だった場合そうも言ってられない絵面を目にしてしまった気がする。俺はそーっと噴水を覗き込み──
「うわぁっ!?」
思わず声を上げてしまった。だって仕方ないじゃないか。噴水の中に人が沈んでいたら誰だって驚く。というか、なんでそんなところで寝てるのこの人。
「ちょっ大丈夫ですか!!生きてますか!!」
慌てて助け起こそうと手を伸ばすと、突然ガシッとその腕を掴まれた。そしてグイと引っ張られる。
そのまま俺は勢いよく引き寄せられてしまい、
「うわっ、ちょ!待っ」
どぼんと水飛沫を上げて、見事に噴水の中へダイブした。息苦しさに暴れると水面に顔が出て、新鮮な空気が肺を満たしていく。
「ぷはっ!けほっ、こほっ……な、何するんですか」
「あれ、あなた、ちあきじゃないですね」
俺を引き込んだ犯人は、不思議そうに首を傾げて言った。
まさか人違いで噴水に放り込まれるとは。うわっ、服ビッショビショ。ここまで盛大にやられると、怒りというより脱力感の方が強い。
「ごめんなさい。なまえもしらぬあなた、だいじょうぶでしたか?」
そう言いながら彼は、俺の濡れた前髪を掻き分けてくれた。
「はい。怪我はないです。その人……えっと、ちあきさん、でしたっけ?嫌いでも噴水に引っ張るのはダメですよ」
するなら水鉄砲をかけるくらいにしないと。ほら、引きずり込むとなると自分まで濡れちゃうし。
「ぼく、ちあきのこと『きらい』じゃないですよ。だいすきです」
「えっと、じゃあどうして噴水に?」
「いつものことなので」
「……つまり、俺は巻き込まれたと」
「はい。でも、みずあそび、きもちいいでしょう?」
「まあ、たしかに。この季節だと少し寒いですけど」
俺は噴水の縁に腰掛けて、鞄からタオルを取り出す。彼は俺の隣に座ってニコニコしていたけれど、そういえば、と首を傾げる。
「でも、へんですね?ちあきの『におい』がしたので、ぜったいにちあきだとおもったんですけど」
「匂い?それってどんな?」
くん、と自分の袖の辺りの匂いを嗅いでみる。
「んー、やっぱり分からないな」
「ふしぎですね、ここまでおなじ『におい』なんて。どこかで、だきつかれましたか?」
「へ?抱き付かれるなんて」
と言いかけて、脳裏に先程のパンをくれた人がチラついた。……俺、思い切り抱きしめられてるわ。
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苺バニラ(プロフ) - りなさん» ありがとうございます!そう言って頂けると、嬉しい限りです!更新が遅めになっていて申し訳ない気持ちで一杯ですが、これからも頑張ります! (2019年8月20日 14時) (レス) id: 563228d52f (このIDを非表示/違反報告)
りな - 凄く良かったです!!面白かったです!!更新無理をせず頑張ってください!応援します!! (2019年8月20日 10時) (レス) id: 55c1958e88 (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - りさこさん» ありがとうございます(*´ω`*)とっても嬉しいですし、励みになりました!りさこさんは優しい方ですね!今後も頑張ります!! (2019年7月29日 7時) (レス) id: 563228d52f (このIDを非表示/違反報告)
りさこ(プロフ) - 更新お疲れ様です!とにかく最高でした!!これからも応援してます!! (2019年7月29日 0時) (レス) id: c7281289de (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - 夜桜ナイフさん» ありがとうございます!時間が空き次第でよければ、拝見させてもらいますね! (2019年7月14日 16時) (レス) id: 563228d52f (このIDを非表示/違反報告)
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