総統室のパティシエ【3】

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味方最大の脅威と謳われるゾムが腕に包帯を巻いているだけで通りかかった兵士は声をあげて驚く
それ見てまた「大袈裟やねん」と気まずそうに頬をかき、傷ついた腕をパーカーの袖にしまった

｢ゾムもそろそろ戻らな、出発やで｣
｢おん、一緒に行くわ｣
｢俺は隊に戻ります。お先です｣
｢おーお疲れさん｣

ショッピ君が去っていき、俺とゾムは並んでぼちぼち歩き始める。所属部隊なんてない2人を、沈みかけの陽がじんわり照らした

｢ロボロ、エミさんと大先生どやった？俺見れてないねん｣
｢エミさんは相変わらず狙撃上手いなぁ。安全装置外し忘れてテンパってたのは平和ボケやけど。大先生は…だいぶ危なっかしかった｣
｢それはうっすら聞いた。平和ボケってかんじでもないんやろ？｣
｢うーん、めっちゃ強いねんけど捨て身っていうかな、必要以上に殺そうとするし｣
｢久しぶりの戦場ではしゃいどったわけでもなさそやな｣

こう言っているものの、俺らはほんまの理由を何となく察してる。Aちゃんのことだけやなくて、大先生は前線から退いた時と同じ目をしてた。

｢なぁ、なんで俺らが隠しとるって気付いたん｣

唐突にゾムが足を止めて尋ねる
それはきっと、あの日4人が出発する前にゾムに言ったお姉さんのこと

｢…俺も一応情報集めとったんやで？それと、伊達にお前と付き合い長ないねん｣
｢…そうか。悪かったな｣
｢ええんよ。隠しとったんは誰も悪ない｣

ゾムは弱々しい笑みを浮かべて｢Aも、俺のこと責めんかってん｣と呟いた

｢あいつに会うまでは、もうちょっと強かった気する｣
｢今も十分強いやろ｣
｢失うんがこんな怖いとか、思わんかったんや｣

珍しい弱音は俺の耳以外に響くことなく、暗がりに溶けていく



俺らが出発間近の隊列に合流した時にはもう月が昇っていて、澄んだ空気に満天の星空が広がっていた

｢帰ったら俺と模擬戦しよや！｣
｢なんでやねん！戦争終わったんやから必要ないやろ！｣
｢運動せんと、筋トレだけじゃモテへんで？ロボロくぅ〜ん｣
｢余計なお世話じゃ！！！｣

いつもの調子に戻ったゾムと騒ぎながら進む
前の方もうるさいから多分コネシマ達
…いや、声的にエミさんがシャオロンに煽られてんのか
戦争が終わっても内ゲバで忙しいのがうちの特徴だ
だいたいトントンに粛清されて収まるか、…最近は、Aちゃんのお菓子に釣られて収束してた。

夜の冷たさが胸に広がる
今はとにかく星がみたい
あのテラスで
彼女のとなりで。

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