君が何と言おうとも、僕は運命を抱き締める。

第5話〜『許さない』〜 ページ8

珱sibe

「っ！？」

勢い良くベッド、もとい岩から起き上がる。

汗がだらだらと首筋から背中へと流れ、喉がカラカラと渇いている。

嫌な夢を見た。

夢の中の事件からは何年も経っている。

今更思い出す様な出来事ではない筈だ。

それでも、あの1日の出来事は、何年も私のトラウマとして色濃く残っている。

『エーテル=クーマリン』

人を裏切り続け、殺し、それを快楽としていた天使。

そいつは、死刑とされ処罰されたが、私のトラウマは消えないし、死んだ仲間も帰って来ない。

ガタッ

私を現実に引き戻す様にどこかで大きな物音が響く。

最近騒がしい。

薄暗い洞窟に人間達の声が響いて来る。

本当に鬱陶しい。

私は人間達の声が聞こえる方角へ右手をかざし

「能力発動“破壊”」

と呟くと岩が粉々に砕け、その近くにいた人間達は、岩に潰され静かになった。

私はまた岩に座り直す。

特にする事も無い。

信じる事を恐れて、様々な者を遠ざけて一人で生きてきた。

信じる事が出来るのは自分だけ。

でもなんなのだろう。

今の生活に何もおかしい所は無いのに

昔仲間と過ごしていた日々とは程遠い。

胸のどこかに大きな穴が開き、そこに風が吹き込むヒューヒューという乾いた音が耳元で鳴り響いている。

乾いているのは私の心なのだ。

そう気付くと私は自分が嫌になった。

この生活を望んで作り上げたのは私なのに

自分が作ってしまった生活に不満を持つなんて。


気持ち的に弱っていると、マイナスな事しか頭に浮かばない物だ。

あの日のアイツの笑い声が鮮明に近くで聞こえる。

でも、それと同時に唯一私を助けてくれた少年の蒼い目も、鮮やかに私の記憶に輝いている。

あの子だけが私を助けてくれた。

吸血鬼では珍しい蒼色の瞳。

海の様に深くて、空の様に鮮やかな。

名前だけでも聞いておけば良かった。

そんな後悔が胸を掠める。

そして私は思いきり首を振った。

私は少しでも

『あの少年と過ごしていれば幸せだったのではないか』

と思ってしまったから。

いくら助けてくれたとしても、いつ裏切るかは分からない。

一緒に過ごしたとしても、邪魔だと思われて斬り捨てられるかも知れない。

じゃあなぜ少年は私の事を助けたんだ？

あんな、自分の身を危険に陥れてまで。

私に少しでも希望を見せる為に？

私の事を、助けるだけの為に？


それとも、私にまた裏切りの辛さを植え付ける為に。

頭の中で疑問が、確信へと変わる。

頭の中が憎悪で真っ黒に染まる。

『許さない』

そんな事を思いながら私は眠りについた。

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