278.悪魔の証明 ページ29
<セフン>
「気持ち、ですか…?」
「はい。Aに恋人がいると知って、どんな気持ちですか」
「…野暮なこと、聞かないでくださいよ」
キムジョンインは、膝の上で両手をぎゅっと握った。
「悲しいに決まってるじゃないですか…そんな意地悪するために、俺を呼んだんですか」
悲しみの中に、若干の俺への怒りを込めたように言うキムジョンイン。
…そりゃあ、怒るのも仕方がないよな。ちゃんと説明しないと。
「意地悪したかったんじゃないんです、すみません。俺のために、聞いたんです」
「…というと」
こんな俺に聞く耳を持ってくれるらしい。やっぱり優しい男だ。すぐ別に恋人もできるだろう。
「俺は…恋愛感情が持てない人間なんです」
何度も口にしたことのある説明。これを言うと、必ず人に言われることがある。
「え…そんなの、どうして分かるんですか…?」
一種の、悪魔の証明だ、と。
「恋愛感情を抱ける相手が現れるかもしれないのに…もったいない…」
…ありがとう、テンプレ返答をしてくれて。
だけどな。
俺は、26年間生きてきて、一度も、恋をしたことがないんだ。
恋愛、という言葉に違和感を抱きながら生きてきたんだ。
疲れたんだ。
そしてそんな時にアセクシャル、というものを知って、少し、気持ちが軽くなったんだ。名前があるんだ、って。
「恋愛感情を持たない人間だと自分を定義すると、楽になったんだ。恋愛しないといけない、と無理に足掻く必要はないんだと思えたから」
「…そう、なんですね…すみません、俺にはなかなか理解できなくて」
「それが普通だよ」
キムジョンインは申し訳なさそうな顔をした。でも、それが、普通。
「でもね、Aに対しての感情は、なんか違うかもしれないと思ったんだ」
「え…」
「今までになかった感情を、彼女に抱くことがあって…これがもしかしたら、恋なのかもしれない、って。だから、俺の気持ちと、Aに恋するキムジョンインの気持ちがおんなじなのか、知りたかったんだ。悪いね、そのために君を傷つけて」
「あ…いや…」
俺の事情を知ると、少し納得した様子のキムジョンイン。
「同じ…なのかな」
「失恋って、どんな感じ?」
「うーん…今の俺は…なんか、気力も無くなって、心にぽっかり穴が空いた、というか…説明が難しいな」
キムジョンインはなんとか言語化しようと頑張ってくれたけど、いまいち、ピンとは来なかった。
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nana(プロフ) - 凄く面白くて大好きな作品です!!更新待ってます!! (2021年9月3日 18時) (レス) id: b477b2d4fe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:LUKE | 作成日時:2021年8月28日 7時