愛の彫刻は消えない【宇髄天元／煉獄杏寿郎】

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杏寿郎はとても優しく穏やかで、何よりも私のことを大切にしてくれた。
たくさんの愛情を注いでくれたお陰で、愛される喜びを知った。


全てを打ち明けることは出来なかったが、宇髄さんとの過去についても話した。


「俺が上書きをしても良いだろうか？」


その言葉に、熱を持った唇を乗せた。

全てを受け入れてもらった今、ようやく色々な追憶から解放されたような気がして、しみじみとしていた。




そんなある日。
隣町で偶然立ち寄ったカフェで、宇髄さんとあの時以来の再会をした。


適度な人混みと明るい店内のお陰で、友人のように話ができた。


「俺、今ここの店長兼オーナーなんだ。」


そう言って差し出された名刺を見て、初めて宇髄さんの下の名前が“天元”だと知った。


『宇髄さん、なんか丸くなったね。』

「ちげーよ。あの頃が尖ってたんだよ。」


“あの頃”と言われても心は痛まなかったが、私は確かにこの人のことが大好きだったな、と心の中がじんわりとした。
その一方で、襟足から除く首筋には、嘗ての模様は無く、目を凝らさねば分からないほどその影は薄れていた。

あぁ、もう宇髄さんは、知らない人なんだな。

そう感じて、会っていなかった月日以上に距離を感じた。



「俺もあれからそれなりに好きな人が出来てさ。
　まーでも、あん時を超える気持ちにはなれなかったよ。」


私もずっと、それと同じことを何度も感じていた。


「家、ここから近いの？」


誘惑しているようには見えないその表情に、私はつい、本当のことを話してしまった。


『ううん、遠くはないけど。隣町だよ。』

「明日の夜、少し会って話さね？
　仕事終わり、車で迎えに行くからさ。」


宇髄さんが会いに来るだなんて、初めてのことだった。
呆気に取られていると、宇髄さんは店員さんから呼び出しがかかって、少し待つように伝えていた。


『わかった。
　でも、今同棲している人がいるから、遅くまでは無理だよ。』

「りょーかい。
　じゃ、この名刺の番号にワンコール鳴らしてもらっていい？
　登録しとくから。」


言われた通り、名刺に書かれたスマホの番号に電話をかけると、宇髄さんのスマホが震えた。
サンキュ。と笑って、宇髄さんは仕事へ戻っていった。




あの時交換しなかった連絡先を、こうして関係が終わってから知ることになるなんて。





早く、杏寿郎に会いたい。

安心して甘えて、上書きを、してもらわないと。









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