第十一話 雨夜と怪盗 ページ32
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『時計も空も、全てが元の姿に戻る時』というのは、月が満ちて本来の姿に戻り、秒針長針短針が一日の始まりの位置へと還ってきた時。
つまりはあの時から一ヶ月経った今夜、その深夜零時のことである。
Aは、朝からそわそわと落ち着かない気持ちで終業時間を待っていた。
どうにもそれがアンナの目に留まったらしい。
昼休憩に入ると、時計を前に座って黙然としていたAの元にアンナが椅子を引きずりやってきた。
「朝からずっと時計ばっかりみて。今日誰かとデートでもするの?」
「そっ…そんなまさか!」
Aは心臓を掴まれたような気がして、咄嗟に立ち上がり首を横に振った。
勿論アンナは冗談のつもりだった。
何故ならAやアンナは大抵終日まで仕事で、外に出れるのは休日か土曜日日曜日、それか外へのお使いだけで、今日Aが誰かと外出するなど不可能だからだ。
しかし、予想を超えた大袈裟な反応に、アンナは何かあるなと悟った。さては、深夜、使用人の誰かと抜け出すつもりなのだろうか。
「ちょっと教えなさいよ。誰と外に行くの? まさかオリヴァー? それともフレディ?」
「ち、違うわ、本当に何にもないのよ」
「フーン…? まぁ夜は雨が降るらしいから外に出るのも程々にしなさいよ」
「だから違うって」
どうだか、とアンナは首をすくめた。
Aは結局アンナの微妙な誤解を解くことが出来ず、少し不安だったが、言い返すのを諦めて椅子に座りなおした。
けれど、雨が降るというアンナの台詞が少しだけ頭に引っ掛かっていた。
予告時刻まで後一時間もない。
アンナの好奇の目を背に受けながらも、凡そ何事もなくAは自室に戻った。
そして部屋に戻ると真っ先に棚の前に立った。中を開くと、丁寧に掛け直したコートがある。棚の奥に、Aは手を差し入れた。
手探りで箱を掴み、Aはそれを引き抜いた。棚の奥に入れたのはもしもの時のために、これだけは盗まれないようにである。
箱を開きAは中のブレスレットを慎重な手つきで取り出した。このブレスレットを付けたのは貰って以来初めてのことだった。
手首で繊細に輝くそれを見た後、Aは卓上の置時計を見た。
時刻は十一時半過ぎ。キッドが来るまであと三十分もなかった。
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恋 - 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
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