第九話 怪盗と邂逅 ページ26
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Aは我を忘れて窓の取っ手を引いた。カチャリと音がして、キッドが中に入り込んでくる。
Aは自分が夢を見ているのではないかと疑った。
無言の中、キッドはAの手を取った。
「無理に起こしてしまいましたか?」
「いいえ……でも、どうしてここに」
やっぱり夢かしらと言いたげなAの顔を見て、キッドは優しく微笑んだ。
「夢かどうかと疑われていますね。生身の人間ですよ、ホラ」
耳元で囁き、キッドはAの手を自身の胸に触れさせた。手に伝わるその拍動は、心成しか少し速いような気がした。
Aは未だに夢か現かと不安定な気分で彼を見上げた。
「まだ私の存在が信じられませんか?」
「ええ、だってどうして貴方がここに来たのか…」
「どうしてって、カードに書いた筈…」
カードと言われ記憶から出てきたのは、ブレスレットと共に箱に収まっていたカードだった。
あれ以来棚の奥に押し込まれ、陽の目を一切見れずにいる。
「あの『円が_』とか書いていたカードのことを言っているの?」
「そう、それです。もしや、只の奇妙な文章だと思ったとか?」
Aは恐る恐る頷いた。
キッドは一瞬面食らったが、フッと笑うと「次の満月の深夜十二時に会いにいきますという意味ですよ」とAに秘密話のように教えた。
「そうだったの。少しもわからなかったわ」
「わかってもわからなくても構いません。ただ、貴方が一度あの箱を開けてくれたことがわかりましたから……それで十分です」
記憶の影と寸分変わらぬキッドが目の前にいることで、Aの頬は知らぬ間に持ち上がっていた。
それに気がついた時、Aは遂に真実を悟った。
自分はキッドに恋をしているのだと。
先程まではその事実を受け入れるのが怖かったというのに、今は微塵も恐怖を感じなかった。
キッドも一月という長い時間をあけてようやく会えたAが目の前で微笑んでいるだけで、全て満足出来たような気がした。
「会いに来てくれてありがとう。もう二度と会えないと思っていたから、私…」
「思っていたから、どうしました?」
「……ううん、なんでもないの。会えて良かった」
今にもおかしな事を口滑りそうなくらい、二人は心が弾んでいた。
自然と二人の間には言葉が少なくただ相手を見てばかりだった。しかしそれでも充分に幸せそうだった。
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恋 - 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
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